AV落人辻丸の言霊〜殉教録〜

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zoom RSS 封殺される魂・・映画メモ「生きものの記録」&「証人の椅子」

<<   作成日時 : 2006/12/09 20:19   >>

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「黙っていることは、言えないのでない、言わないのでもない。意味が相手に通じないのだ。表現の無能無力、感情の行き詰まり、放心だ。抵抗する何物も持たない者の唯一の武器は、それより無い。黙っていても、考えてはいる」


「生きものの記録」・・・55年 監督黒澤明 出演三船敏郎 志村喬 根岸明美 千秋実

「死ぬのはやむをえん・・・だが、殺されるのは嫌だ!」

ある日突然、原水爆の恐怖に取り憑かれた老人は、一家を引き連れ海外脱出に奔走するが、誰からも理解されることなく、遂には自らの鋳物工場に火を放ち、精神病院に送られてしまう。
彼は狂人だったのか。
彼の衝動理由は、ただひとつ・・・・殺されるのは嫌だ!

死ぬのは、やむをえない。
誰だって死に、誰だってそれまでの間を精一杯生きる。
老人は一代で工場主となり、多くの妾をかかえ、文字通り、生命力の溢れるまま、生きに生きてきた。
しかしそれでも彼は老いてなお、殺されることを拒否した。
戦争であれ、核であれ、権力であれ。
そして老人であれ、庶民であれ、たった一人の孤独な変人であれ・・・。
僕も同じ、だと思う。
いずれ死ぬのはやむをえないが、殺されるのだけは嫌だ、と思う。
だが、僕は何もしていない。
脱出どころか、自壊どころか、"敵"の存在すら意識出来ないまま、じっとじっと、自らの怠惰でもって、己を拘禁している。
僕は狂人とさえ見なされていないから。
僕には糾弾すべき、いかほどの巨悪も見つけられていないから。
じゃあ僕は殺されることもないクズなのか。
嫌だ!と叫ぶ資格すらない、人間の廃棄物でしかないのか。
僕だってずっと叫んできた。
声を枯らして、何度も何度も訴えてきた。
反核でも、テロルでも、ユートピアでもない。
殺されていたくない、と。
生きているのに、ここにいるのに、誰からも無視され、笑殺され、放逐されてしまっていることが、全身で我慢出来ないのだ、と。
相手にされないのは、殺されていることと同じだ。
気にもかけられないのは、滅ぼされ、棄て去られていることと、まったく変わらないのだ。
僕には理想の大地もない。
全財産を投げ打ってまで救おうと願う愛する者達なんて、一人もいない。
だから僕には戦いようもないんだ。
憤怒を叩きつける、明確な"悪霊"が、どこにも照射出来ないのだ。
殺されていたくない。
それなのに僕は、永遠の生殺しの果てを、辿っていくしか、命がない。

老人は言う。
「わしは、原水爆だって避ければ避けられる、あんなものにむざむざ殺されてたまるか、と思うとるからこそ、このようにあわてとるんです。ところが臆病者は、震え上がってただただ目をつぶっとる!」

むざむざ殺されてたまるか・・・僕もそう思ってきた。
だから何度でも何回でも、様々なことを試み、色んな種類の人々と関わってきた。ぶつかっていった。
僕だってあわてていたんだ。
死ぬほど焦ってきたんだ。
理想が高い?自分からアタックしなきゃ?
愛そうとしないから、愛されない?
殺されたこともない人間に何が分かる!!

そして僕は臆病者になった。
不貞腐れっぱなしの、虫ケラになった。
何も見ようとせず、ちょっとした入り口だけで、スゴスゴと引き下がるみじめな腰抜け野郎に。

家裁の人間に老人は唸る。
「わしは、ひとつだけあなたに、いやあの時わしを裁いた人達に言いたいことがある。あの時わしは確か、水爆に対して少しも不安など感じとらん、と言いましたな?ところが見て下さい、一目でお分かりじゃろう、わしは、不安で不安でたまらん!しかしな、こうさせたのは、あなた方ですぞ。わしは今、あなた方の御蔭で、手も足も出ん。なんにも出来ん。ただ黙って水爆の恐ろしさを考えとる。考えとるだけじゃ!考えれば考えるほど、いてもたってもいられなくなる、しかも、な、何も出来ん!人間、これ以上の責め苦はありませんぞ!」

僕も裁かれてきた。
いつも読んでますから、だの、続けて下さい、だの、何もしてあげられませんが、だの。
ところが誰にも見えていない。
一目で分かってもらえるように、情けないほどの言葉で哀訴してきたのに、誰も彼も僕に一言の慰めも送ってくれない。
御蔭で僕は手も足も出なくなった。
一切の返事を書く気力も無くなってしまった。
ただ黙って殺されっぱなしの恐怖に怯え、震え上がり、そして・・・考えれば考えるほど、いてもたってもいられなくなる。
しかも何も出来ない。何をしても、どうあがいても、一切好転などしない。
誰も気にもとめないんだ。
何もしてあげられませんから・・・・とっくに死刑宣告だ。

これ以上の責め苦があるだろうか。
僕はどこへ行こうと、何をしようと、どれだけ頑張ろうと、結局何もしてもらえない、心配も応援も、たった一行の言葉さえもらえない、完全な奴隷なのか、懲役囚なのか、ヒニンなのか。
ずっとこうだった。
生まれてから、いつだってこんなザマだった。
そしてもう疲れ果てたんだ。
くたびれきって、責め殺されて、あとは・・・黙り込むしか、生きている術を見失ってしまったんだ。

老人の入院した医師は言う。
「私は・・この患者を診る度に、ひどく憂鬱になって困るんですよ。こんなことは初めてです」
「・・・・」
「狂人というものは、そりゃあ皆、憂鬱な存在には違いありませんが・・・しかし・・・この患者を診ていると、何だかその・・・正気でいるつもりの自分が、妙に不安になるんです」
「・・・・」
「狂っているのは、あの患者なのか・・・こんな時世に、正気でいられる我々が、おかしいのか・・」
「・・・・・」

こんなことを言ってくれる人は、僕にはいない。
僕を病人として診てくれる、いかなる正気の人もいない。
僕は他人を憂鬱にさせるだけか。
いや、そんなパワーすらない、ただの憐れで卑小な、厄介者の行き着く果てか。
僕以外、みんな正気なんだ。
だから僕は、いつまでも誰からも、普通に相手してもらえることも、てんでないんだ。
僕は白痴でいい。
そう呼ばれて、人知れず排斥されてしまう方が、もうよっぽどいい。
僕にはメッセージはないのだ。
人類への、家族への、未来への壮大なヒューマニズムなど、カケラも持ち合わせていないのだ。
こんな奴は、生きもの、ではないのか。
僕は記録されることもなく、沈黙に包まれて、消去されてしまうだけなのか。
もう、そうなっている?
なるほど、そうか。
けれど、僕なんかにも、まだこんな言葉を書き残す時間が与えられているようだが・・。

「黙っていることは、言えないのでない、言わないのでもない。意味が相手に通じないのだ。表現の無能無力、感情の行き詰まり、放心だ。抵抗する何物も持たない者の唯一の武器は、それより無い。黙っていても、考えてはいる」

「証人の椅子」・・・65年 監督山本薩夫 原作開高健 出演福田豊士 奈良岡朋子 新田昌玄

冤罪事件をドキュメンタルに描いた実録映画のラストナレーション。
その事件は、司法という名の国家権力によって無理やり証人の椅子に座らされた庶民の、魔性な不条理劇だ。
被告の無実が確定したのは、逮捕から実に31年後、すでに被告が亡くなって6年も経ってからのことだ。
奪われた人生。
決して省みることのない、権力という悪魔。
でも今の僕は、そんな真摯な問題に向かい合える立場にはない。
社会正義を謳えるような、当たり前の大衆にはいない。
僕は証人と同じ心情をなぞるだけだ。
その苦渋の極を、煎じて口にするだけだ。
証人と狂人。
彼らは監禁される。
その叫びは封殺され、彼らの真実は徹底的に抹消されてしまう。
しかし彼らは戦っている。
生きていることで、証人でも狂人でも、その魂が存在することで、どこかの誰かを、ふんぞりかえりたがっている奴等を、きっと畏怖させている。
僕は証人でありたい。
狂人でありたい。
まがい物と呼ばれてもいいから、彼等の血を、ほんの少しでも、這っていたい。

「生きものの記録」の老人には、ラスト、二人の味方が無言で交錯した。
「証人の椅子」の被告と証人には、たくさんの支援者と活動者が、笑顔を送った。
僕には誰もいない。
だけど、僕は・・・言えないのでない、言わないのでもない。
意味が相手に、どんな相手にも通じないのだ。
表現の無能無力、感情の行き詰まり、もう永久の放心だ。
抵抗する何物も持たない僕の唯一の武器はそれより無い。
黙っていても、おし黙っていても・・・・考えてはいる。
一人で、今日も明日も明後日も、たった一人で・・・・。
そして毎日、泣いている。
あなた方が、無視しているだけだ。


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