AV落人辻丸の言霊〜殉教録〜

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zoom RSS 飛べる自由、巣喰う自由・・「燃えよ!カンフー詩録」

<<   作成日時 : 2005/12/28 19:17   >>

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「皆、そうなんだ・・・・」「・・・そう言うあなた自身、偏見に捕われている」「俺の苦しみがわかるか?」「・・・・」

日照り続きで川も湖もすっかり枯れてしまった町へ現れた僧は、残り水にあたってフラフラになっているところを横暴な保安官助手に捕まりそうになるが、無意識のうちに身についた少林寺の技で打ち負かしてしまう。それを見ていた黒人少年ダニエルは気を失った僧を父カレブに黙って、こっそり馬車で家まで運んでやる。
「誰からも指図を受けることはないんだ。どこで暮らそうと、俺の自由だ」
カレブは白人との接触を避け、家族を守るために黙々と働く頑固一徹な父親だった。
炎天下の農作業にダニエルがボヤく。
「暑いなあ」
「暑いと思うから暑い。暑いと思わなきゃいいんだ。休まず体を動かしてりゃ暑いなんて感じる暇はない」
「それ、お爺さんから教わったの?」
「お爺さんなんて顔も知らんよ」
「じゃあ誰から?」
「自分で覚えたんだ」
「パパは兄弟もいなかったんだろ?」
「ああ」
「寂しくなかった?」
「思う暇がなかった」

暑さも感じない。寂しさも感じない。自分の根も探さない。
すべて自分から覚える。自分だけだから自由でいられる。
あらゆる枷からの、強烈な脱出。
僕は寒い。寂しくてたまらない。自分の根は知らないが、今だにどこかでアテにしている。
僕も自分で覚えた。沢山のことを自分から知った。
しかしそこに、自由と呼べる、きらめきは、とうとうなかった。

見殺しにするの?というダニエルの言葉で、カレブは渋々僧をかくまってやる。
動けなくなって眠る僧の横で、ダニエルは僧の持っていたレンズに瞳を輝かせて興味を示す。それに気がついた僧は、少林寺での少年時代を思い出す。
池の水面に棒をさしている僧へ、高僧が近づいていく。
「蓮池で魚をとっているのか?」
僧「違います、先生。不思議なことを発見しました」
「ほう、何だ?教えてくれ」
僧「棒はまっすぐなのに、水の中では曲がって見えます」
「それは何も不思議なことではない。お前が今迄知らなかっただけだ」
僧「何も不思議なことではないのですか・・・」
「物が見えるというのは、毬が壁に当たって跳ね返るように、光が当たってその反射がお前の目に見えるということを知らんのか?」
僧「でもどうして棒は曲がって見えるのですか?」
「一つの毬が二つの違う壁にぶつかるからだ。水と、そして空気だ。それでお前の目には曲がって見える」
僧「どういうことなのか、私にはまだよくわかりません」
「よく見ることだ。そうすれば自ずとわかってくる。他にも今迄知らなかったことが色々わかるだろう。まず疑問を持つことだ。そこから色々な知識が身について賢い人間になるのだ」

疑問を持つ。
僕の場合は、絶えず疑う。
人を疑い、ものを疑い、世の中を疑い、自分さえ疑っている。
問い、ではないのだ。
疑うだけ。ろくに見もしないで、考えもしないで、裏を探り、勝手に決めつけ、唾棄するだけ。
僕は無学だ。涙も出ない無知だ。処刑すらされない永遠の独房囚だ。

大分回復した僧に、病気が直ったら僕に喧嘩のやり方教えてくれる?とねだるダニエル。僧は静かに諭す。
僧「あの技を習ったのは、体と心を、ひとつにして鍛えるためで・・・他の人間に対して使ってはいけないのだ」
カレブが問う。
「しかし現にあんたは、使ったじゃないかね?」
僧「病気のために、体と心が、離れていたんです」
「・・・あんたはどういう人なんだ?腕の焼き印を見た時、俺はてっきりあんたも同じ境遇の人間だと思った」
僧の両腕には虎と竜の焼き印がある。それは少林寺の僧侶としての、免許皆伝の証しなのだが。
僧「同じというと?」
「肌に焼き印を押された。俺のように・・・」
奴隷の証しである胸の傷跡を見せるカレブ。
「物心ついてからは、俺は何度も逃げたが、その度に捕まり、鎖で死ぬほど殴られた。が、俺は諦めなかった!」
僧「・・・・」
「解放令でやっと自由になった・・」
僧「・・・・・」
「あんたは違うのか?」
僧「・・・・違います」
僧は、まだ生々しい腕の跡を撫でる。
僧「私は、僧です」
「・・・・それじゃ一体誰がその印をつけたんだ?」
僧「・・・・私です」
「自分の体に焼き印を押すなんて一体どういうつもりだ?これを消すためなら俺はどんなことだってする!」
僧「私には、誇りです」
「・・・・・・」

同じ焼き印が、奴隷を生み、僧侶を生む。
屈辱の証しにも、心の誇りにも、成り得る。
強制された蛮行と、自らが選んだ苦行。
人は誰でも、産まれた瞬間、生涯消せない焼き印を押される。どんな人間も、産まれる場所を選ぶことは出来ない。
だから人は、それぞれに奴隷なのだ。どこにも逃げ出せない、絶えず鎖で打ち据えられる、傷持つ身なのだ。
けれど人は僧侶にもなれる。
屈辱から誇りを築き上げることも出来る。強制の中から、自分の心を解放することも出来る。
だが、それは、とてつもなく難しい。
たとえ強くても、諦めなくても、体と心をひとつにすることは、そうあり続けることは、なかなか出来ることではない。
我々はそうしなくては、いけないのか。
奴隷に留まっては、いけないのか。
ほとんど誰もが、結局奴隷じゃないか。焼き印を押されたままのくせに、より弱い者達を、鎖で打ちまくっているじゃないか。
誰に誇りがあるんだ?
自由な魂なんて、どこにあるんだ?

僧はダニエルにレンズをあげようとする。
僧「それで、ものを見ると色々なものがはっきり見える。今まで知らなかったことを色々覚えるだろう」
「返しなさい」
カレブが言う。
「息子に必要なものは、俺が与える。覚えなきゃならんことは、俺が教える」
僧の手にレンズを戻すカレブ。寂し気に離れるダニエル。
僧「気がつきませんでした・・・気を悪くしないで下さい」
「皆そうなんだ。俺を人並みの人間として見ようとしない。人並みの知恵もある。頭もあるんだ。それなのに肌の色が違うというだけで差別する。俺達には何の能力もないと決めてかかるんだ!」
僧「・・・そう言うあなた自身、偏見に捕われている」
「俺の苦しみが、わかるか?!」

僕は偏見の固まりだ。人並みの知恵も頭も、能力もないとわかっていて、何一つはっきり見えてもいないというのに、僕は自分を独占している。自分が自分に、捕われている。
それでもやはり、またこんな風に言ってしまう。どこかの誰かに吐き捨ててしまう。
僕の苦しみが、わかるか?
あなたに、見えるか?

僧はレンズの向こうにクモの巣を見つける。
少年の頃の記憶が甦る。クモの巣を見ている僧に、盲目の高僧が尋ねる。
「何がある?」
僧「クモの巣にハエが・・・巣を壊しますか?」
「なぜだ?」
僧「他の虫の自由を奪いますから」
「よく見るのだ・・・クモが生きている限り、巣を壊してもまた作る」
僧「でもクモを殺すことは出来ません」
「じっと見ろ・・・クモもまた巣に捕われている」
僧「・・でも、このままでは、また生き物を捕獲して殺してしまいます」
「羽を持って自由に飛べるハエの方が気の毒か・・・」
僧「捕われの身で・・・」
「ははは・・・わかっとらんな。どちらが捕われの身だ?自由に飛び危険に陥ったハエか、飛ぶ喜びも危険も知らず巣に留まるクモか・・・」

飛べるハエ、巣を守るクモ。
自由を求めて危険に落ちるか、危険を怖れて自由を捨てるか。
僕はもちろんハエではない。と言って、クモのように何かを捕獲することも、己の巣を何度でも作り上げる力もない。
僕はどちらでもなく、ただ捕われている。羽も巣もなく、じきに殺される。
ハエは誰だ。クモは誰だ。
僕はビデオカメラのレンズの中で、一体何に映っているんだ?

カレブの家には枯れない井戸があった。妻は、町の皆に水を分けてあげては、と言うが、カレブは白人との共存など認めない。
僧が井戸のことを偶然知ってしまうや、銃を向け、足枷をつけろ、と命令する。
かつて自分が強いられていた、鉄の足枷を。
僧「誰にも話す気はありません。信じてもらえませんか?」
「俺は他人を信じない。自分以外、誰も信用しないんだ」
僧は黙って、自ら足枷をつける。

自分自身への、足枷。自分以外、信じないという心の枷。
人は他人に枷を強いる。決して自分に課したりしない。
だが、そう見えるだけではないだろうか。
他人への枷が、他人への不信が、自分への絶対が、人を縛る、己を捕らえる、自分の心へ銃を向ける。
僕は、自分を、信じていない。

翌日、そのままで朝を迎えた僧に妻が詫びる。
「どうかウチの人のことを悪く思わないで下さいね。今迄あまりに酷い目に合ったもので・・」
僧「わかります・・・」
「自由の身になった日からあの人は誓ってるんです。自分以外の人間は絶対に誰も、信じないって・・・」
僧「きびしい生き方ですね」
「いい人なんです、とっても。夜も寝ずに色んなこと勉強して・・・あの人のすることは、正しいんです」
僧「信じてるんですね」
「どんなことでも、ウチの人の決めたことに、私は従います」
僧「・・・・・・」

過酷な現実に、嘘はない。
きびしい心に迷いは少ない。
しかし、いい人であるとは、誰にも言えない。
正しいこととは、断言出来ない。どんなことでも、すべてに従っていて、人間はいいはずがない。
わかっている。わかっているのに、人はとかく、こうしてしまう。
信じたいから。自分が信じたいことだけ、信じていたいから。
それも奴隷だ。人間は、奴隷だ。

井戸のことは誰にも話さないと約束した僧の足枷をカレブは外し、裏山の向こうまで馬車で送っていこうとする。まだ病気が直ってないかもしれないのに、とダニエルは止めるが、父親は聞き入れてくれず、反発した息子は僧と一緒に家を出て行くと言い出してしまう。それをたしなめた僧は、カレブの許しを得て、もう一度レンズをダニエルに差し出すが、「他人からモノをもらっちゃいけないってパパが言ったよ」と拒絶される。
沈黙するしかない、カレブと僧・・・。

人は自分から奴隷になる。自由を求めて、いつの間にか奴隷に堕ちている。
カネの奴隷、仕事の奴隷、欲望の奴隷、愛の奴隷、自分の奴隷・・・。
いつか何も出来なくなる。大事に守ってきたものさえ、自由に出来なくなる。
人は何のために、戦ってるんだ。
何がうれしくて、戦いに、己に、捕われて生きていくんだ?

出発しようとしていたカレブ達の前へやって来た保安官助手が、ケリをつけようぜ、と僧にいきなり殴り掛かる。
僧「あなたと争う気はありません」
強いんだからやっちゃうんだよ、とダニエルは僧に叫ぶが「この人を殴る気はない」
と、僧は無抵抗だ。
「誰も傷付けたくありません」
しかし調子にのった助手は鎖まで持ち出し、止めようとしたカリブにも打ち掛かっていく。
「やめろ!俺は自由だ!」
奴隷のように白人の鎖でメッタ打ちにされながらも、カレブは叫ぶ。
たまらず助手を叩きのめす僧。
そこへ保安官が現れ、助手の胸からバッジをひっぺがして、追い払う。そして保安官は、井戸の水を町の皆にわけてくれないか、とカレブに頼む。
カレブは僧に尋ねる。
「あんたなら、どうする?」
僧「あなたは自由な人間だ。好きに出来る」
水を分けるのは構わないが、井戸を開放したらそのうち土地まで取り上げられてしまうに違いない、とカレブは訴える。そこで保安官は、夜中に自分にだけ分けてもらい、どこから運んだかは知らせずに皆にふるまう、ということでは、と提案する。カレブは承知した。

争う自由。傷つけない自由。
傷つけられる自由。争わない自由。
人間は、結局好きにするしかない。自分が好きに生きるしかない。
しかし、その自由が、人に幸福を分け与えることも出来る。皆の幸せを慈しむことも出来る。
ハエでもいい、クモでもいい。
飛んでもいい、留まってもいい。
飛ばなくてもいい。巣喰わなくてもいい。
人は、自由であるべきだ。好きなことを選んで、皆と幸福になるべきだ。本当は、本当は、そうなるべきなんだ。
でも、僕はハエでもクモでもない。
好きに出来る水も家族も、喜びも、僕には未だ、見つからない。
人と争い、人を傷つけて、ばっかりで・・・。

別れの時。
ダニエルはいつかまた会えたら、その時あの技を教えてね、と僧に乞う。再び、僧は優しく諭す。
僧「他にもっと覚えなきゃならないことがある」
「・・・・何かあげるものがあればいいんだけど・・」
僧「もらったよ」
「・・・・・」
僧「お父さんからの・・・自由ということについて、大事なことを教えてもらった」
去って行く僧を、見送りながら、かたく手を繋ぎ合う父と息子。

自由がエゴにならない。自由が我欲に堕ちない。自由が誰も捕らえない。
本物の自由は、人を奴隷にさせない。
だが、僕には自由がない。真実の自由が、僕には見えない。
誰も幸せに出来ず、誰にも何も与えられず、誰とも手を繋げず・・・。
僕はまた去って行くだけか。
自分で自分を見送りながら、ひとり終わっていくだけか。

僕の苦しみが、僕に、わかるか?

















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