AV落人辻丸の言霊〜殉教録〜

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zoom RSS ながらえば・・・

<<   作成日時 : 2005/12/23 17:42   >>

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すごい現場だった。何がって、男優の顔ぶれである。平均年齢恐らく五十歳!四十四歳のこの僕が、一番若いのである。
AV業界もかれこれ二十五年?こういうこともあるのだ。こうなっても仕方ないのだ。

昨今、多くの現場で僕は最年長になる。
スタッフ、汁男いれると三十、いや四十人近い大所帯の中、自分が一番のベテラン。
と言えば聞こえはいいが、正直、あまりいい気はしない。いくら精神年齢ウンヌンをわめいてみても、現実の数字を意識しないわけにはいかない。
僕よりずっと若く業界入りしてキャリア的には上、という人がいたとしても、トシはトシだ。深さや濃さに個人差はあっても、時間の長短には、ごまかしがきかない。
ましてエロ業界なんて、高齢になればなるほど一種の恥かき稼業だ。若気の至り、なんて言い訳も通用しない。いい年してまだやってんの?誰に言われなくても、自分が自分に一番ボヤいている。

その昔、業界名物、マナベのオッちゃん、という人がいた。
モデルプロダクションの社長兼マネージャー、と言えば聞こえはいいが、要は周旋屋、ヌードモデル手配師。
僕が雑誌編集者として業界入りした当時、まだまだエロの主流はエロ本だった、自販機本だった、ポルノ映画だった、ヌード撮影会だった。
だから女の子も基本的には、ヌードモデル、ポルノ女優と呼ばれていた。どちらもとっくに死語か欠番。
とにかくそんな古き良き時代?の看板キャラが、マナベのオッちゃんだった。
「いい子いるよ、いい子いるよ」
僕はこの人のしゃべりは、これしか記憶にない。一年中、このノリでオッちゃんは新宿の業界ご用達喫茶店を何軒もハシゴしていた。ポラロイド写真片手に、ピンボケ気味の白黒写真チラホラさせて。
誰も熱心に見ている業界人などいなかった。ああ、そう、と軽く聞き流して、横目でかすってやるだけだった。
いい子なんて、いた試しがないからだ。
セーラー服物なのにオバさん、若奥様物なのに汚なそうなフーゾクくずれ節、大体こんなパターンしか用意出来るわけがない、零細個人プロ。
それでもオッちゃんは変わらなかった。僕がまったく噂を耳にしなくなるまで、ひたすら、いらっしゃいませデニーズへようこそ、じゃなかった、十八番を繰り返していた。
いい子いるよ、どう?いい子いるよ。
当時であの人、幾つくらいだったのだろう。そのものズバリのオッちゃんだったのか、あの皺と浅黒さからして、オジイちゃん、に手が届いていたのかもしれないが。
どこかで御健在なのだろうか。

そんなエロ業界の成れの果て、に僕もなろうとしている。現場によっては、そう揶揄されてもおかしくないほど、オッちゃんになってしまっている。
その僕が先日の現場では輝かしき若輩者、まだまだペーペーの青年気取り。
と言って、だからウカれるどころか、むしろ逆の情けなさを味わったのが、切ない現実。
AV男優四人、しかし僕を除いた御三方、皆さん揃って別に立派な本職がおありなのだ。

一人目の方はれっきとした俳優さん。テレビにも映画にもVシネにも、かつてはCFにも出演されていた。
つい前日まで二時間ドラマで伊藤四郎と共演されていたとか。他のキャストが柏原芳恵に石倉三郎に犬塚弘に・・・これまたスゴい面々だが・・・。
同時に居酒屋の店長さんでもいらっしゃる。マニアビデオの監督でもいらっしゃる(ここまで書けば、まあどなたか、わかる人はわかるだろうが・・・)。
二人目の方は、プロの漫画家さん。単行本も何冊も上梓されている。連載でもしょっちゅう拝見させてもらっている。
そしてラストに来られた方もテレビ映画等で御活躍の名脇役さん。刑事ドラマに再現フィルム(今はビデオか、ああ懐かしのウィークエンダー)、はては免許更新時に見せられる交通安全教材ビデオにまで堂々の御出演・・・。
その方も本名で、何と便利屋さんをなさっている。
「何でもやります こなします」
いただいた名刺を飾る、泣かせの文字。
「誰かがそれをしようとしないなら まず私がそれをしよう
働けば 凍るひまなし 水車」
もう脱帽である。
こういう人がこんな業界にも、まだいてくれる。ここまで歪んだ背徳番外地で、今だ孤軍奮闘されている。僕は何も言えなかった。ただただ、名刺を押し頂いて、平伏すのみ、ありがたや、ありがたえ、と唱えるのみ・・・だった。

何のことはない、男優しかやってないのは、僕だけなのだ。
一番若いはずの僕が、一番仕事してないのだ。怠けているのだ。
その点でも、ガキには違いないか。冗談じゃない。
一体どうする気だ。
このトシにもなって、ここまで何もしようとしてないで、病気にもパソコンにも耐えざる労働にも負けずに生きている逞しい先輩諸氏がいるっていうのに、僕はなんて有り様だ。どこまでお目出たく、死ぬまで直りそうにないのか・・・・。

とは言え、ここまで高潔な方々に囲まれ、一人三ん下の身分に戻れた僕は、久々心洗われ、青い山脈、巨人の星、の気分に浸れていたのだから始末が悪い。
ところが、現実の流れは、またもや「東京物語」並のシビアな側面を僕に突き付けてくれた。
俳優さんは脳梗塞からカムバックしたばかり。医者へ行ったら、中がすでに破裂してる、とまで言われたギリギリの絶壁体験。危うくミスタージャイアンツか世界のオーシマになりかけた、奇跡の復活男優。
漫画家さんはパソコンがどうしても今だ身に合わず。出会い系サイトの取材のため携帯メールだけは何とかこなしているという、時代の被害者。
便利屋さんだけ、お変わりもなく、かどうかは結局わからない。我々人間ごときに、人の運命などわかろうはずがない。

今年も訃報が続いた。早過ぎる死も目立ったが、やっぱりそろそろあの人も、と呟きたくなる寿命とか衰えとかを意識させられる病死、急病、事実上の引退も目についた。
人はいつどうなるかわからない。
そのうえ、いつどうなってもおかしくない年齢というヤツが間違いなく誰にでも迫ってくる。
加齢は確実に人を時代から遅らせていく。社会のスピードは容赦なく個人の年齢を無視してつっ走っていく。
取り残され、体を病み、鈍っていくばかりの能力と気力を抱えて、それでも生きて行くしかない、人間という厄介者。
何でもやりたい、こなしたい。
でも、いくらやってもこなせない、何でもはもう、さすがに出来ない。
僕の若さなんて、あの現場で感じたつかの間の若年気分なんて、枯れる間際のボロ水車。
人はトシをとる。
長く生き過ぎる。
苦痛ばかりが、人生には積もりに積もる。

「ながらえば」
山田太一作、笠智衆主演の老人テレビドラマ。
死を決意した孤独な老人が旅へ出るが、結局死にきれず、同じような孤愁の老人と出会って一緒にしばらく生きてみようと考える。
とりあえず、生き続けてみよう。
人間なんて、人生なんて、こんな風の、果てしない繰り返しなのかもしれない。
とりあえず、生きてみよう。
とりあえず、とりあえず・・・生きてて、いよう。

だが、人間は一人ではない。
男優はイケメンばかりではない。
AVは、エロ業界は、伊達に長く、しつこく、生き延びてきたわけではない。
俳優さんはちゃんと絡みをこなして店に戻った。
漫画家さんもキーボードではなく、ご自分の手で絵筆を握り続けている。
便利屋さんのような変わらないタフな人もいる。
名刺だけではなく、こんなうれしい話も聞かせてくれた。
あのV&Rプランニングの安達かおる監督が待望の新作を撮影されたとか。
御存じ、スケ番物。そしてV&R恒例、真冬の酷寒ロケ。
便利屋さんは男優ではなく、何と大型トラックの運転手として撮影に参加されたとか。
そしてそして、さらにあの「ジーザス栗と栗鼠スーパースター」シリーズのような作品をまた手掛けてみたい、とも監督語ってらしたとか。
実現してほしい。
ぜひまた、あの究極の異端ワールドを再び体感してみたい。
みんな生きてる。
中年になろうと、娘並みの若い女優とエッチしようと、僕等、古株男優達は、それでもAVに今も、出続けている。

ながらえば?
変わらない人もいる。
変わるまいと、何度でも立ち上がろうとする不屈の人もいる。
そういう人達と、また仕事してみたい。
この日の現場のように多少の感傷にまみれつつも、また這い上がれそうな、這い回れそうな、しぶとさと粘りと潔さを身をもって教えてもらえるような、人間らしい居場所の末席に座らせてほしい。
とりあえず、とりあえず。
されど、ながらえば、働けば、命あらば、また立てる、またやれる、また・・・また。
生きている、人間だからの、物語。

「ひとには同じように見えても、ぼく自身はひとつひとつに新しいものを表現して、新しい興味で作品に取りかかっている」
          小津安二郎








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