AV落人辻丸の言霊〜殉教録〜

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zoom RSS 追想「子宮に捧げる愛の詩」その三"現場"

<<   作成日時 : 2013/02/28 18:24   >>

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"自分は神にさえ、おびえていました。神の愛は信ぜられず、神の罰だけを信じているのでした。信仰。それは、ただ神の咎を受けるために、うなだれて審判の台に向かう事のような気がしているのでした。" 



さて、当日である。
泣いても笑っても・・・泣きも笑いもせずに撮影当日を迎えたわけである。
それほどの感慨があったろうか?
憶えていない。
何も憶えていない。
ただセリフだった。
ただもう、セリフ覚えのことで頭は一杯だった。
これで怪優だの、ベテランだの、たかが知れている。
僕はまったくのAV男優。
そういう自意識すらないままに、僕はいつものAV現場同様、電車に運ばれ、スタジオの最寄り駅に降ろされ、あいにくの雨を恨みつつ、早すぎた到着に近くの中古DVD屋を覗き、何も購入せぬまま、逃げ道寄り道も尽きた末、久しぶりに訪れる某スタジオへと歩き着いた。
いつも言われる、大袈裟なるボストンバッグを肩に食い込ませての独り行脚。
撮影に変わりはない。
僕はこうして20年以上、現場と呼ばれる異界?を、訪ね続けて生きている。

予想通りの誰も不在の空スタジオ。
いや、その時間にはスタッフの誰かが先乗りして準備中と聞いていたのだが、人影はおろか、鍵も開いていない。
幸いなるかな、地下一階のスタジオにはエレベータ前にわずかのスペースと地上へ続く階段があった。
つかの間の我が個棲空間。
雑然狂騒たる撮影現場で、己だけの隠忍蟄居の場が得られるくらい至福を感じる時もない。
僕はセリフを暗唱する。
汚れた壁に、古いエレベータのドアに、外界に至る冷たい階段に。
今だ完璧には心許ない我がセリフの習熟度。
つまる、トチる、飛ばす、乱れる、そして霞む。
この苦行から早く解放されたい、という怠慢の想いと、いっそこのまま誰も降りてきてほしくないと願う倒錯した埋没希求と・・・。
どうせセリフを間違いなくしゃべれたとしても、ただそれだけの我が空疎なる独善芝居。
一番見たくない聞きたくないのが、誰あろう自分自身。
それが現場での僕の常だった。
いや、現場という晒し場を直前にした僕の変わらざる本質だった。
セリフ覚えなんて、言い訳に過ぎない。
僕はいつも怖いのだ。
何かをすることが。
何かを試すことが。
何かに裁かれることが。

少し遅れて撮影隊到着。
スタッフ、キャスト、続々集合。
僕の人生で最も長くその時間を共有したのが、こう呼ばれる人たち。
AVと言ってもスタッフには映画、TV、CF、プロモVD関係の人の方が少なくない。
AV女優だって、そのキャリアは人生のほんの一部。
男優だけが・・・いや、彼らにだって家庭がある、副業がある、青春も恋愛も、人間としての個人史がある。
僕には見えない届かない、魑魅魍魎にして深遠なる現実社会。
そんな中で非情にも試されるのが、審判に付されるのが、僕のいつもの役目。
怖くならないはずがない。
およそ勝ち目のない一般社会との対峙に、逃げ腰だけで這い回って、死に損なってここまで来たようなこの僕が、開き直った平常心などでいられるわけがない。
セリフは喘ぎ。
苦し紛れの弁明。
僕はいつも逃げ出したいのだ。
社会の片隅に置き去りにされた、人間とか称する者のひとりとして、誰にも見られず気づかれず、ほっておかれたい、忘れられたい、唾棄されてもいい、試されたくないのだ、裁かれたくないのだ、そして断罪されたくないのだ。
答えは判決は、評価はランクは、そして人間としての決定は・・・とっくに下されているから。
僕はこんな厳しい場所にいられる存在ではない。
資格も技量も才能もない。
だから隅っこを探す。
隠者を求める。
現場で死んでいようとする。
いなくなった自分を夢見る。
この日も同じだった。
僕はビクつきっぱなしのまま、スタジオ内を右へ左へ、漂泊の身を流離ってみせるだけだった。

だが、である。
実際のところ、現場での僕はどうだったろうか?
どんな風に見られていただろうか?
とにかく動いていた。
さして広くもないスタジオ内を移動しまくっていた。
そしてよくしゃべった。
ほとんどが冗談。
からかい。
寒いギャグ。
道化だ。
まったく僕は道化ていた。
スタッフの数はいつもの倍?
レールが走る。
イントレが組まれる。
ライティングに時間が、フレームに手間が、芝居にテストが・・・当たり前だ。
これは映画だ。
僕はますます道化る。
初日ということからか、スタッフ外の、名も知らぬ人達が集ってくる。
誰かが騒ぐ。
誰かが笑う。
誰かが謳う。
いや、そう見えるのは僕の臆病さと卑屈さゆえ。
僕はそれ以上に騒いだ。
下らない笑いをとり、しつこくふざけ、とことん滑稽にして奇人を気取った浅はかな振る舞い・・・。
思い出すのも自己嫌悪。
痛烈の自己否定。
恥の多い現場を送ってきました・・・?
自分には、人間の生活、現場と呼ばれる社会生活というものが、見当つかないのです?
つまり自分には、人間の営みというものが未だに何もわかっていない・・・考えれば考えるほど、自分には、わからなくなり、自分ひとり全く変わっているような、不安と恐怖に襲われるばかりなのです?
自分は隣人と、ほとんど会話が出来ません。何を、どう言ったらいいのか、わからないのです・・・?
ニンゲンシッカク?
そんな高尚なものではありません。
ただこの現場で、セリフと演技という業に追いつめられる映画の撮影現場で、僕がしゃべっていたことといったら、他愛ない冗談と、厭味な毒舌と・・・あとは覚えきれないセリフだけ。
まったく自分の言葉がない。
自分の会話がない。
どこにも、自分がいない!
"人間に対して、いつも恐怖に震えおののき、また、人間としての自分の言動に、みじんも自信を持てず、そうして自分ひとりの懊悩は胸の中の小箱に秘め、その憂鬱、ナァヴァスネスを、ひたかくしに隠して、ひたすら無邪気の楽天性を装い、自分はお道化たお変人として、次第に完成されて行きました"


AV男優だから道化ではありません。
役者の真似事をしようとしたから道化でもありません。
生きようとしたから。
現場で生き果てようとしたから。
僕はカメラの前に立つ以前から道化でした。
出番を待ちながら道化でした。
女体拷問研究所の主催者であろうとなかろうと、僕は現場をひたすら道化で通していました。
これが僕のようです。
僕に与えられた生涯の役どころのようです。
ただし、僕は所詮売れないAV男優。
全ては己の弱さとズルさの為せる甘えの結果。
"自分には幸福も不幸も"あり過ぎです。
"一さいは、過ぎて"いってくれません。
淀んでいます。
うずくまっています。
そう、"一さい"は過ぎてくれないのです。
現場が終わるまで。
生きることが絶えるまで。
僕が男優になったのは二十七。
白髪も増えました。
たいていの人から・・・幾つに見られるでしょうか・・・。

"所謂「死相」というものにだって、もっと何か表情なり印象なりがあるものだろうに、人間のからだに駄馬の首でもくっつけたなら、こんな感じのものになるであろうか、とにかく、どこという事なく、見る者をして、ぞっとさせ、いやな気持ちにさせるのだ。私はこれまで、こんな不思議な男の顔を見た事が、やはり、いちども無かった"
引用すべて、太宰治「人間失格」より



つづく


















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2012-09-27
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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
辻丸さんこんにちは。いつも拝見させていただいております。
月日が経つのは早いですね。私も日々歳をとっています。
桜の季節ですね。でも私には淡い桜の色も、清々しい青空も、モノクロにしか感じません。
私は毎日から「逃げたい」と思いながら生きています。
過去を毎日思い出して、そして過去にすがる…の繰り返しです。自分が自分でいれた時代を…あの時代…過去にしか場所のない
でも時間はまた過ぎるのでしょうね。瞬く間に…
いつか空を青く、山が緑に、人間をあたたかく感じられる日が来てほしいと思っています。
辻丸さんが毎日を健康で過ごされることを願っています。
ブログの「つづき」を待っています。
つくし
つくし
2013/04/03 15:49
ありがとう。
自分を見失い、煽られるまま自分を売っていることにさえ気がつかない人ばかりの世の中・・・あなたの悲しみはあなた自身です。今のあなたを守っているのです。どうか、過去を慈しむ今の、そしてこれからのあなたを大事にしてあげて下さい。
AV落人
2013/04/04 11:23

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