いえ、人間です・・・「燃えよ!カンフー」詩録

「なぜ?なぜ殺すんです?」「(こいつは)人殺しだ!」「あなたもそうなるんです、殺せば」「俺は羊なんかじゃないんだ!!」「あなたは望み以上のものを学んだんです。自分の力を知った。自由を。何が足りませんか?」




僧はある海岸の村で、偶然恩人の息子と出会う。
彼マテオの父は、かつて清国で、まだ少林寺に入門する前の幼児だった僧の父親を、盗賊の一団から命を捨てて助けてくれたのだ。
何しに来た?と問うマテオに、マテオの父から託された聖母マリアを彫り込んだお守りを差し出しながら僧は言う。
僧「借りを返しに・・・」
だが、その犠牲によって父を失い、母を苦労の末に病死させてしまったマテオは、激昂して僧を殴る。
マテオ「おやじの命をカネで買いに来たのか?!」
僧「・・・」
マテオ「お袋は夜も寝ずに、おやじの代わりに働いた。俺達のために命をすり減らして、稼いでくれた。そして・・・苦しみながら死んだ」
僧「・・・」
マテオ「そいつを・・・償えると思うのか?」
僧の足元にお守りを叩きつけるマテオ。
マテオ「お前の借りは・・・返せはしない!」

遺された者はいつも言われる。
そんなにカネが欲しいのか?
殺した方にも色々事情があって・・・。
借した方がなぜか言われる。
知恵を出さなきゃ何もしてやらねえからな!
借りた方はすぐに忘れる。
無理やり抱き込んで、今こそひとつになろうなんて・・・。
それが分かっているから、歴史はそんなことの繰り返しだから、骨身に染みて、"被害者"は承知しているから、彼らは怒る。叫ぶ。暴れる。
そして憎まれる。
諭される。
置き去りにされる。
誰も悪くないんだよ。
苦しんだ人。
働かされた人。
命をすり減らした人。
償いは、ない。
何も返ってこない。
奴等は決して殴られない。
借りはどこへ行った?
いつの間に洗い流された?
返せは、しない。
だけど叫びたい。
返せ。
返せ。
悪い者どもよ!
借りを返せ!

教会の前、聖母像の傍らに立ち尽くす僧に神父が語りかける。
神父「借りを返しに来たお方か?」
僧「はい」
神父「どうするつもりです?」
僧「返さなければ」
神父「マテオが聞かんでしょう、頑固なうえに誇りも高い」
僧「・・・心の正しい人でしょう」
神父「そうです」
僧「では、いつかは、返せるはずです」
神父「強い信念をお持ちだ、あなたも」
僧は回想する。
マテオの父を埋葬した墓の前に立たずむ幼い日の僧と、父。
父「怖いのか?そうらしいな。わたしの代わりに死んだんだ。なぜ助けてくれたのか、それも分からない。命がけで人を助けるなんて、気軽に出来ることじゃない。理解しようとするのが間違いだ。わたしに分かっていることはただひとつ・・・償いきれぬ借りが出来たってことだ」
僧「・・・・」
父「いつかあの人の国へ行って、家族を探し出して、何かをしなくてはいけない。それが何であれ、十分とは、言えんだろうが・・・」

聞かない人こそ正しい。
頑固なほど折れない人が、本当の誇りを知っている。
分からないことは分からないと思う。
理解出来ないことは、理解しようとすることの方が間違っていると信じる。
確かなことは自らを省みること。
しなくてはならない唯一のこととは、己を断じ、己に科し、己に負わせること。
返さなければ。
十分などありえないと分かってはいても、いつかは、と念じ、祈り、振り返り、そして生きる・・・。
誰がそうしているだろうか?
今も。
昔も。
これからも・・・。
ざまぁ見ろだ、か・・・。
聞いてはいけない。
平伏してはならない。
奴等を。
信念ごっこの者たちを。

マテオの家の前から立ち去ろうとしない僧に、マテオの妻が問う。
妻「いつまでいる気?」
僧「借りを返すまで、です」
妻「どうしても返したいっていうの?」
僧「はい」
妻「なぜ?」
僧「私の義務です」
妻は、ならば金を出してくれと言う。
サイヘロというならず者の一味が、このあたりの山賊たちから村を守ってやっているという恩義をカサに、毎年村から大金を巻き上げていくのだ。今年は収穫も少なく、このままでは皆、飢えてしまうだろうと。
しかし僧が無一文と知るや、妻は怒って帰ってしまう。
少林寺時代を回想する僧。
盲目の高僧が、マリアのお守りを手にしている。
高僧「平和と慈愛の女神だろう。その恵みを心に感じながら、真心を込めて彫ったようだ」
僧「父の命を助けてくれた人が持ってました」
高僧「これがあればいつの日か、お父さんが受けた恩を返すことが出来るかもしれん」
僧「そんなこと出来ますか?父もその人も死んでしまっているのに」
高僧「お父さんには息子がいて生きておる。そしてその男にも、息子がいるか孫がいるかもしれん。そして息子が父の遺産を継ぐように、その借りも継ぐのが本当だ」
僧「あの人の子供に返すんですね」
高僧「実際に子供がいて、受け取ってくれたらな」
僧「・・・・」
高僧「これがその時には役に立つだろう」
僧「なぜです?」
高僧「誠意が通じない時、橋渡しの役目をしてくれるからさ」
僧「・・・・」

義務に形はない。
体裁も、肩書きも、豪邸も、派閥もいらない。
真心とは形を作るもの。
彫り込むもの。
恵みを刻むもの。
だから死なない。
死では決して滅びない。
奴等は消そうとするだろう。
隠蔽して抹消して、都合のいい虚塔の果てに、己を神として祭り上げようとするだろう。
だが、借りは継がれていかなくてはならない。
苦悶の遺産こそ、永劫に渡されていかなくてはならない。
そうしてあなたは受け取らなければいけない。
慈愛の印。
平和と誠意のオブジェ。
それは弱弱しく、情けなく、みじめったらしく・・・けれど誰かに返してほしい。
通じてほしい。
継いでほしい。
すぐそこにあるから。
あなたの側にあるのだから。

突然、サイヘロ一味が村へ現れ、金は集まったかと神父達を脅す。
マテオの弟ハイボが、若さと血気に逸って抵抗しようとするが、子分の一人にやられてしまう。
だが、割って入った僧が、子分達を叩きのめすと、サイヘロは苦笑しながらも、今度までには金をちゃんと用意しておけと言い捨てて、悠々と去っていく。。
しかし、ハイボが一味の馬からこっそりライフルを奪ったことには誰も気がつかなかった。
僧「今でもあの人達が必要なんですか?」
神父「どっちとも言えませんね・・・」
僧「それでは試してみてはどうですか?」
神父「まだ、山には賊はいるようです」
僧「では、自分の村は、自分で守るんですね。自分でやることでしょう。村の人が、あなたが」
神父「・・・・!」

自分が守る。
自分が生きる。
だのにどこからか余計な手が伸びてくる。
加勢と称して、復興と騒いで、天罰と罵って・・・。
誰も試さない。
奴等が必要か?
本当の賊は一体どこにいるのか?
誰がその時、まぎれもないその瞬間、守ってくれるのか?
死んでみせてくれるのか。
やるべきことをやってくれるのか。
多分、誰もいない。
あなたは気がつかない。
生きるとは・・・・あなた以外にはない。

僧が、金を減額してくれるようサイヘロの元へ交渉しに行った直後、ハイボがライフルでサイヘロを狙った。
だが所詮、素人のハイボは、発射の衝撃で後方に倒れ、そのまま崖下に転落して絶命してしまう。
葬儀の日、教会に集まった村人達を前に、サイヘロは明後日までに何としても金を渡せと怒鳴りつける。
(この村には)男はいねえな、羊だけだ!と罵倒しながら。
その夜、マテオは僧の元を訪れ、人の殺し方を教えてくれ、と請う。
サイヘロに金は渡さない。一対一で勝負してやるのだ、と。
僧「サイヘロに勝てますか?」
マテオ「助けてくれれば」
僧「・・・人を殺すお手伝いは出来ません」
マテオ「何しにここへ来たんだ?お父さんの借りを返しに来たと言ったろう?!嘘か!!」
僧「・・・よく、考えて下さい」
マテオ「考えたあげくに来たんだ!」
再び、回想する僧。
僧「その、亡くなった人に大きな借りがあると言ってましたけど」
高僧「ああ、それがどうかしたかな?」
僧「借りは返さなきゃいけないんでしょうか?」
高僧「ああ、お父さんは認めてたんだろう?」
僧「ええ、そうです」
高僧「お前も、その借りを認めるのかね?」
僧「・・・ええ、認めます」
高僧「では、いつの日にかその支払いを受けるはずの相手を探し出すか、それとも向こうから訪ねてきたら払うべきだな」
僧「命を無くしてるのに、何で払うんですか?」
高僧「向こうで言うだろう」
僧「無理なことを言われたら?」
高僧「ははは、例えば何かね?その男は何よりも大事な命を捨てたのだ。お前も、欲しいと言われたものは何でもやる義務がある。命も含めてな」
僧「・・・それが私の義務ですか?」
高僧「名誉とは、どんなものかを知っていれば、な」
僧「・・・・」

名誉など誰にもない。
それが、ひとつになること?
義務など誰も守らない。
それが、羊になること?
義務とは殺すことではない。
攻めることでも罵ることでもない。
認めること。
教えること。
助けること。
殺されること。
名誉は苦しい。
けれど傷つけたのが自分なら。
誤ったのが己だったら。
名誉を知ろうという、ほんの少しの、ちっぽけな勇気が残っているのなら。
死んで構わないと思いたい。
羊のままでも、僕は死にたい。

そして今、僧はマテオに問う。
僧「どうしても教えろというんですか?」
マテオ「そうだ、教えてくれ」
僧「・・・」
マテオ「嫌なのか?!」
僧「・・・」
マテオ「他のものは欲しくない。教えるか、借りのまま残すか、だ!」
僧「・・・」
マテオ「・・・」
僧「・・・借りはお返しします」

僕は何を教えてほしいだろう?
人間を。
世の中を。
女を。
自分を。
借りだけが悪夢のように残っているだけだ。
人間という全ての他人。
世の中という底知れない不可解。
女という永遠の距離。
AV女優は遠かった。
あなただけが、かろうじて近かった。
こんな僕に。
こんな男優に。
こんな自分に。
返せるまで生きているだろうか?
借りとは言いたくない。
愛・・・そして夢。
あなたは夢・・・。

修練が始まった。
力任せに僧に組みかかっていくマテオだったが、あっさりねじ伏せられてしまう。
マテオ「力なら、負けないと思っていたが・・・」
僧「力には、腕の力と、心の力があります」
マテオ「心の力とは?」
僧「体は矢で、心は弓です。心の力を上手に使わなければ」
マテオ「なぜ?」
僧「あなたの腕の力では、サイヘロに勝つのは無理です。彼の力を知り、それを逆に利用して勝つんです」
再び、厳しい稽古に励むふたり。

心の力を信じたい。
生きていていい、と思う力。
信じなくていい、と想う力。
戦わなくていい、と念じる力。
勝たなくていい、と祈る力。
生きているだけで、あなたは修練している。
苦しみぬいている。
ねじ伏せられ、潰されようとしている。
それでいい。
あなたの心は、あなただけの、あなたのための、小さな力、命のちから・・・。 

その夜、サイヘロ一味が僧を待ち伏せしていた。
サイヘロ「手伝ってるな?殺し方を教えてるだろう?」
僧「借りがあるもので」
サイヘロ「はは、借りか・・・それならよく分かる・・・しかしもう一度命乞いするつもりじゃないだろうな」
僧「戦いたくないと思ったら、相手をしなきゃいいんです」
サイヘロ「俺に羊をどう扱えって言うんだ?」
僧「羊、じゃない」
サイヘロ「あんた、こっちへ渡ってくる前は何してた?農夫か?判事か?兵隊か?」
僧「僧侶です」
笑いだす子分達。
サイヘロ「ほんとか?分からねぇ話だよなあ、坊主が羊をけしかけて死なせようとしている。代わりに自分が死んでやる気もねぇらしいぜ」
僧「・・・・」

あなたの周りは生きることを教えていない。
殺し方を。
あなたを殺すことを。
そして知らない誰かを殺させることを。
さもなければ命乞いのやり方を。
羊は食べさせてもらうだけ。
命令されるだけ。
戦わされるだけ。
でもあなたは、あなた自身の心で、死のうとしなくてはならない。
誰かの代わりではなく、あなたのために、いつか死んでみせなくてはならない。
だから、それまで生きていていい。
誰を恨んでも、何を憎んでも、全てを否定しても、生きていてかまいはしない。
人は笑うだろう。
あなたは真剣だから、真実だから、絶対に笑ったりしないだろう。

仕事も忘れ、必死で稽古に没頭するマテオ。
妻が僧を責める。
妻「父親の借りを、息子を死なせて返すつもり?!」
僧「死にませんよ」
妻「私や産まれてくる子供はどうなってもいいんでしょ!」
マテオは父親になろうとしていたのだ。
それでも僧の指導の下、拳法、体術、剣術とガムシャラに学び取ろうと組らいつくマテオ。
幾度となく僧の技に投げ飛ばされようとも・・・。
僧「痛みは力を削ぎ、傷は闘志を削ぐ。相手の武器ではなく目を見るんです。心は目に表れ、武器の動きを教えます」

痛みを忘れた権力。
傷を無視する地位。
人間を失くした妄執、カネと我欲の亡者。
目だけじゃない。
声も息も、顔も影も・・・腐っている。
堕ちきっている。
品格という名の偽善。
武器がうごめいている。
女も子供も、弱い者無力の者・・・どうなってもいい!
心のいらない世の中。
あなたは、苦しくて耐えられなくて当然なのだ。
草のように自然に、生きているんだ。

遂にその日が来た。
無法者達の要求を拒み、初めて非道と対峙するひとりの男。
一対一の苦戦の末、だがマテオは遂にサイヘロの剣を奪い取る。
子分達は一斉に銃に手をかけるが、勇気を持った村人達が力を合わせて奴等を封じ込める。
しかし、トドメを刺そうとしたマテオの手は、僧に遮られる。
なおも凶器を手にせんとするマテオに僧が対する。
僧「なぜ?なぜ殺すんです」
マテオ「(こいつは)人殺しだ!」
僧「あなたもそうなるんです。殺せば」
マテオ「俺は羊なんかじゃないんだ!!」
僧「何です?オオカミ?」
マテオ「・・・」
僧「誰でやめます?サイヘロ?子分達?私?」
マテオ「・・・・」
僧「あなたは望み以上のものを学んだんです。自分の力を知った。自由を。まだ足りませんか?」
マテオ「・・・・・・」
彼は武器を捨て、妻の肩を抱く・・・見守る教会前の聖母像。

なぜ?
なぜ殺すんです?
あなたを。
誰でもない、あなたを。
あなたは羊じゃない。オオカミでもない。無法者でも、人殺しでもない。
あなたは今、あなたを学んでいる。
知ろうとしている。それで辛い思いを、たまらない毎日を送っている。
自由ではないでしょう。
やめることだけが、与えられた自由でしかないと、あなたは諦観しているでしょう。
まずあなたを殺す武器を捨てて下さい。
あなたの肩を抱いて下さい。
視線でも、つぶやきでも、わずかな眠りでも。
あなたは人間です。
あなたは見守られています。
魂に。
命に。
人間だから。
誰でもないあなた、だから。

別れの時。
僧に感服し、村を諦めたサイヘロは尋ねる。
サイヘロ「昔、清国に戦いを職業にした者がいたそうだな?」
僧「いました」
サイヘロ「今でも商売になるのか?」
僧「雇い手がないようです」
サイヘロ「じゃあ、どうしてる?」
僧「今は、農業や商人、鍛冶屋です」
サイヘロ「羊か・・・」
僧「いえ・・・人間です」
おとなしく去っていくサイヘロ達・・・。
神父が言う。
神父「さて・・・借りは返しましたね」
マリアのお守りを無言で神父に託す僧。
神父「これをマテオに?」
僧「生まれてくる仔に・・・」
神父「・・・・・」
平和を取り戻した、母なる海を臨む村を後にする、独りの僧・・・・。

無くならないもの。
戦いで儲ける輩と、性で稼ぐ連中と・・・死にすがる人々。
僕もその一人だ。
けれど、あなたは違う。
たとえそうだったとしても、心は違う。
戦いは、いらない。
性よりも、愛を託したい。
殺すくらいなら、死にたい。
奴等はこんな我々を羊と呼ぶ。
人間ではないと蔑み、嘲笑する。
でも、あなたにはこう言いたい。
生まれたままのような、かけがえのない仔である、あなたに言ってあげたい。

いえ・・・人間です。


いえ・・人間です。


いいえ、人間です。


人間です。


あなたは、人間です。






















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この記事へのコメント

ブランカ
2011年09月18日 21:06

もう無理かもしれないと思っていました。
自分が人間であることなど忘れていました。
言葉をありがとうございます。
いつまで出来るのか分かりませんが
もう少し生きてみようと思います。

2011年09月19日 12:49
生きることは無理の連続です。
でも、だからこその命です、あなたです。
どう想い、どう生き、そしてどうしようと・・・あなたが人間だから、です。
もう少し、の美しさに・・・。
風華
2011年12月25日 22:45
たまに声を求めて立ち寄っています。
MerryChristmas
2011年12月27日 13:41
ありがとう。
あなたを、あなたが、褒めてあげて下さい。
聖夜が過ぎても・・・。

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