AV落人辻丸の言霊〜殉教録〜

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zoom RSS ニッポンはここだ・・映画メモ「巨人と玩具」

<<   作成日時 : 2006/02/20 19:03   >>

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58年 監督増村保造 原作開高健 脚本白坂依志夫 出演川口浩 野添ひとみ 高松英郎 伊藤雄之助 小野道子

「ひたすらもっぱら不景気だ」
「不景気だ・・絵に画いたような不景気だ」

ざっと五十年前の映画である。半世紀前の日本が舞台である。
そこでこのセリフだ。
古き良き時代・・誰がそんなこと言った・・・どこにそんな日本があった?

三つの製菓会社が売り上げナンバーワンを競って、すさまじい宣伝闘争を繰り広げる社会派ドラマ。
激烈なセリフの荒波が、これでもかとばかりに、スクリーンに嵐を呼ぶ。
「この狭いニッポンが活字と音でギュウギュウひしめいてる。しかも編集者やプロデューサー達は常に次から次へ一秒も休まず紙を活字で汚し、電波を空中に流さなければならない。でないと彼等はメシの食い上げだ。皆何かを書き、しゃべるために血眼になってスターを探している。いなけりゃでっち上げる。芥川賞作家、シスターボーイ、人殺しまでがスターになる。英雄になれる」

ビデオも衛星放送もインターネットも携帯電話もなかった時代である。
そんな静かでノンビリしていたという時代から、日本はギュウギュウだった。次から次へ一秒も休まず血眼になって働いていた。でっち上げていた。
何を?
スターを、英雄を、要するにカネのなる木を・・・。
コギャルの成れの果てが芥川賞作家。
ニューハーフだかビジュアル系だか。
人を殺せば殺すほど、獄中結婚も出来る、本も出せる。
正しいことをしたと思っている。やっぱり僕は有名人なんですね。
その通り。君は時代の英雄M、らしいのだ。

ワールドキャラメル社のやり手宣伝課長、合田はこうブチ上げ、タクシー会社でオタマジャクシを飼うすっとんきょうな小娘、響子をイメージタレントとして強引に売り出してみせる。主人公の新米宣伝部員、西はそんな彼に心酔し、響子の付き人になるが、あくまで仕事は仕事と割り切り、響子のモーションには応じず、ライバル社のアポロキャラメル宣伝部のキャリアウーマン、雅美と関係する。
業界最先端の会社前には傷痍軍人のグループ。
派手な宣伝カーの周囲につらなるデモ行進。
響子が務めていたタクシー会社ではヒマを持て余すドライバー達が連日ボヤいている。
「絵に画いて蹴飛ばしたいような不景気だ」
「蹴っ飛ばして踏んづけたいような不景気だ」

戦後十三年。60年安保は間近。
不景気は今も変わらない。
だが、当時は被害者としての訴えがあった。行動があった。蹴っ飛ばして踏んづけてやりたい憤りに満ちていた。
今は被害者がいない。誰もが、みっともなくて哀れでくたびれるだけの被害者などになろうとしない。
被害者は嫌われる。世の中から排斥される。
蹴っ飛ばして踏んづけられるのは、今や被害者なのだ。負け犬なのだ。
誰もオタマジャクシなど飼わない。
弱くて育ててやらなければならないような存在など、現代ではただの邪魔者。
醜くブクブク肥え太ったヒキガエルに、皆かしずき、喜々として毒をすすっているんだ。

合田は響子をトップアイドルにしてみせるが、過労と激務が彼の肉体を容赦無く蝕んでいた。彼は覚醒剤(当時は普通に手に入ったのか?!)に手を出してまで乗り切ろうとするが、響子のグラビアを手掛けたアル中の無頼派のカメラマンは、ニヤリとして彼に囁く。
「あんた、目の下にクマが出来たね」
「・・・」
「うれしいね、お仲間ができて・・・ちっ、見ろよ、あのツラ。(テレビCFで響子が歌っている)世の中に怖いものなんかないわよぅってツラしてやがるじゃねぇか。あんたが目の下に傷つくってる間に響子はオモチャじゃなくなっていく。オタマジャクシはカエルの子・・ふっふふふ・・はっはっはっ」

目の下にキズ。
人は何のためにボロボロになるまで戦うのか。
世の中に怖いものなんかない。
いつまで経っても、とっくにジャリでなくなっても、そう信じ込んでいる輩がいる。
人間にとって一番怖いもの。
それは自分だ。自分の心と肉体だ。
心が肉体をいたぶる。心が肉体をズタズタにする。
誰も止めてくれない。自分の心との戦いだけには、結局誰も勝てやしない。
心は守るべきなのに。
己の心こそ、最も慈しむべきものだろうに。
人は巨人になど、なれない。
人は何ものの玩具でも、ない。
誰もが、自然の下で生きているのだから。
逆らって戦えば戦うほど、その報いが訪れる。
勝って勝って手当りしだいに打ち負かしてしまえば、その償いは傷つけた形のまま、自分自身の、決して勝てない領域にとことんハネ返ってくる。

テレビ局内。
颯爽と歩く後ろ姿を見送りながら、売れない女優が二人、喋り合う。
「女のプロデューサーね」
「あの人、オンナじゃないの」
「じゃあ、何よ?」
「キ・カ・イ」
繁華街では、急停車したタクシーと後続の車が衝突。たちまち始まる喧嘩、ののしり合い、つかみ合い・・・キレ合い。ひしめきあう車、車・・・洪水のような人、人、人。
西は雅美から言われる。平和な目してるわね、ボウヤ・・・。

昭和三十三年。
生きることは機械になることだった。
キレる若者より、しつこくしつこくキレ続ける大人達が町には大勢いた。
日本人はちっとも変わってなどいない。
昔は良かったなどと自画自賛して、幻想に酔っているだけだ。それを真に受けて、セピア色のお伽噺をせっせとこしらえるノー天気なカントクがいる有り様だ。
彼等は日本映画など見ないのだろうか。
この国が素晴らしい大人達によって作り上げられてきた、とでも本気で思っているのだろうか。
いつまでも平和な目をしていて、2006年のニッポンをどう撮るつもりなのだろうか。

宣伝部会議。
アポロ社が工場を火災で失う。穏健な部長はここぞとばかりにライバル社を蹴落とすのはフェアではない、と主張するが、政略結婚した娘婿の合田は、あえて義父に反論する。「良心、とかおっしゃいましたね?品位、とも言われましたね?我々は今、人生論の討議をしているわけですか?」
「いゃあ、私が言いたいのは、つまり・・」
「僕等は川中島の時代に生きてるんじゃない。僕等がアポロに同情して宣伝を控えればジャイアンツ社がひとりで儲けるだけだ。つまらないことです。この際我々のすることはただ一つ!宣伝費を増額して、キャラメルを売って売って売りまくることだけです」
「若いよ、君は!」
「・・若い・・・」
「君はね、宣伝の力を過信しているよ」
「どうしてです?」
「キャラメルの需要には限度がある。限度を超えれば我々がいかに騒いでも大衆は受け付けない。赤ん坊だって犬だって、食べたくないものにはそっぽを向くんだ」
「はっははは・・・あなたはズレてる。知らないんだ、マスコミの時代を。いいですか、現代の人間は赤ん坊以下です、犬以下です。なぜか?彼等は考えないからです。昼間は奴隷のように働いて、夜は酔っぱらうかマージャンかパチンコ、でなければラジオを聴くかテレビを眺める。一体いつ考えるんです。頭の中はカラッポです。そこです!我々が狙うのは。このカラッポな頭の中に我々が繰り返し繰り返し叩き込むんです。おいしいキャラメル、栄養のあるキャラメル、ワールドキャラメル、ワールド、ワールド、ワールド!すると彼等は、ワールドキャラメルを見れば自然と手を出す。口に入れる。はっははは、わかりましたか?ラジオ、テレビ、映画によるマスコミはすべてを強制出来るんです。大衆の意志も感情も思いのままに動かせるんです。マスコミは現代の独裁者です、帝王です!」
「君は大衆を軽蔑している!傲慢だよ、キチ●イだ」
「私は現代を信じています」

赤ん坊以下。犬以下。
誰に反論出来るだろうか?
どこの誰が、毎日考えて生きているだろうか?
奴隷のように働く。
酒かゲームか、マスコミに提供されたものを一方的に眺める。
頭をカラッポにしたくて酔うか、ヒーロー気分を味わいたくて、ひたすらボタン操作に熱中するか、代行のタレントの活躍に、仲良く揃って喝采を送るか。
意志も感情もない。
良心や品位なんて言葉、口にすらしない。
いや、限度さえないだろう。
喜んで強制されたがっている者たち。
独裁者を待望する者たち。
帝王に従属したいと夢見る者たち。
キチ●イは、大衆の方だ。
傲慢な現代を支えているのは、軽蔑し合ってしか生きられない、我々なんだ。

部長を追い落とし、その座に納まった合田は部下達に大号令をかける。
「大増産が始まる。我々はアポロの足をさらおうとしているんじゃない。時期がたまたま一致しただけだ」
「しかし・・少しあざといんじゃないんですか?」
「会社の方針だ!君達はワールドキャラメルの名前を叫んでくれればいい。同情、妥協、自重、信頼、そんなものは宣伝部には必要ない!」

あざとさ、という言葉の意味を忘れた日本人。
いや、あざとさを賞賛し、ヒーローの条件に祭り上げ、大号令に勧んで踊るだけの、心の必要を失くした日本人。

ようやく西も合田の非情な戦略と、ビジネス競争の過激さにまいっていく。
悪酔いする彼に雅美は、さらりと言ってのける。
「空き巣狙いと同じね、ワールドもジャイアンツも。まるでキチ●イみたい」
「キチ●イみたい、じゃない、本当のキチ●イなんだ。一体何してるんだろう、俺達」
「生きてるんでしょうね、きっと」
「自分の両手で自分の首を締めながらね」
「息が足らないんじゃないの、それが現代ですもの」
「仕方がない?俺は嫌だ」
西の叫びに雅美は冷たく笑う。
「ねぇ、恋人として忠告するわ。私達、考えたり迷ったりしてたら、踏みつぶされちゃうのよ」

今の日本、空き巣狙いをキチ●イと吐き棄てる人間などいない。
考えないから犬以下なのに、考えれば、疑問を持てば、拒否を選べば、血も涙もなく踏みつぶされてしまう。
そうか、踏みつぶされる者さえ、いなくなってしまったのかも・・・。
わずかの人を殺せば罪人と呼ぶ。しかし戦争は百万人を殺せば英雄だ。
チャップリンは偉大だった。
わずかの人を殺せば、心の闇だの、慚愧に耐えません、などと言う。
しかし政治や経済やマスコミで百万人を騙くらかせば、その心を封殺すれば、たちまち英雄だ。カリスマなんだ。
とっくに空気は足りない。
マトモに生きていけるだけの、生物に必要な量に足りる、我々の自然な酸素はどこにもない。

だが、頼みの響子はあるプロダクションに引き抜かれてしまい、ワールド社は一転窮地に陥る。
響子に入れ知恵したのは、こともあろうに西の親友だった男だ。
激怒して詰め寄る西に、男は冷ややかに答える。
「友情?信頼?そんなものを信じ込んでたら、明日からメシの食い上げさ」
「昔のお前はそんなじゃなかったよ!」
「進歩しないなぁ、お前は。いいか、食うか食われるか、騙すか騙されるか、そんな時代に生きてんだぜ、俺達は。バスに乗り遅れまいと思ったら生き方を変えなくちゃならねぇのさ」
「教えてくれ、誰がお前をそんなに変えたんだ?」
「俺、ジャイアンツ辞めたよ。お前、給料幾らだ?十年経って幾らになる?重役にもなれないで定年退職した時、お前のふところに一体幾らの金が残るってんだ?ああ、つまんねぇ!俺は食うためなら何でもやるぞ。お前のフった響子をくどいた。何が悪い?一気に金を儲ける?何が悪いんだ?俺はそれを自分に強制してるんだ」

食うこと。儲けること。
それを自らに強制し始めた時、人間は変わった。我々は変わり果てた。
何も悪くない。誰も悪くはない。
食わなきゃ生きられない。儲けなければ幸せにはなれない。
誰が決めたんだ。
人間をそんな風に、どこの誰が作ってしまったんだ?
多分・・・我々なんだろう。

合田は遂に吐血までしてしまうが、諦めようとはしない。
メインの宣伝アトラクションにだけでも何とか出てほしいと西は響子に懇願するが、あえなく袖にされる。
報告を受ける合田に、もう我慢出来なくなった西は、憤怒を叩き付ける。
「また叫ぶんですか?わめくんですか?それで何が残るんです?わずかばかりのキャラメルが売れるだけじゃないですか」
「地位が残る、金が残る。俺は部長になって次は重役だ」
「血を吐きながらですか?苦しんでのたうちまわりながら、ですか?僕は嫌だ、今日限り辞めます、こんな商売」
「辞める?・・辞めてどうするんだ?」
「もっと人間らしい、もっと意味のある生き方を・・」
「はっははは・・・お前は夢でも見てるのか?ここはニッポンだぞ。無意味でも非人間的でも、とにかく遮二無二働かなければ食えないニッポンだぞ!小学校の先生になったって、カミカゼタクシーの運転手になったって同じだ。キチ●イみたいに叫び、怒鳴り、走り回らなければ生きられない!」
「人間ってそんなもんじゃない。あんたは知らないんだ。あんたは愛のない結婚をした。部長を倒してその地位を奪った。極めて残酷なやり方でね。そんなあなたを僕はわずかの間でも尊敬していた。あなたのようになりたいと思っていた。それが悔しいんだ!あんたなんかに人間の生き方がわかるもんか」
「文句があるならこのニッポンという国に言え!人間らしく生きたかったらどこか遠い国へ行ったらどうだ?青い目をしたお人形の国へ。しかしニッポンにいる限り俺の真似をしろ、俺の言うことを聞け!」

青い目をした人形の国。
そうか、昨今の若いカントク達はそういう世界を撮りたいわけだ。
人間らしく生きる。
意味のある生き方を貫く。
しかし五十年も前からニッポンはそんな国じゃなかった。
そんな風に生きられた人間なんて、実は一人もいなかった。
だから2006年のニッポンは、もっともっとひどい国になってるじゃないか。
血を吐くような国。苦しみに、のたうちまわるしかない国。
しかも彼等は吐いた血を飲み干しながら、叫ぶ。
苦しみながら、わめく。
のたうちまわりながら、怒鳴って走って、遮二無二、今日も明日も明後日も働く。
上から指図される通りに、無意味に、非人間的に、人生を前向きとやらに生きる。
誰も文句なんか言わない。悔しがりもしない。
人間がどういうものか、知ろうともしない。
言うことを聞くだけ。
見えない相手の、尊敬もしていない誰かの、残酷極まりない真似を永久に繰り返しているだけ。

西は宣伝部を飛び出すが、うめき声に驚いて戻ってみると、合田が自らアトラクション用の宇宙服を来て、サンドイッチマンになろうとしている。かたわらには血のついたワイシャツが脱ぎ捨てられて・・・。
西は無言で合田を殴り、自分が代わりに黄色の宇宙服を身に付け始める。
「ははは・・・お前もニッポン人だ。俺の跡継ぎになれるぞ」
「僕はあなたみたいに血を吐きませんよ!」
「そうかい・・・はは・・・ははは・・・・」
イカれた表情で見送る合田。

ニッポン人とは、サンドイッチマンかもしれない。
それとも、血を吐く宇宙人。
狂わなければ生きていけない。
狂ってしまわなければ、勝ち続けられない。
それが嬉しいのだ。ニッポン人はずっと延々そうやって、生息していきたがる民族なんだ。イカれた歴史だ。

夜の大通りを宇宙服の男が歩く。
馬鹿でかいヘルメットをかぶり、ワールドキャラメルと書かれたプラカードとオモチャの銃を手にして・・・。
奇抜なサンドイッチマンの登場にすれ違う人間達はクスクス笑うのみ。
そこへ雅美が通りかかる。
「笑うのよ・・明るく・・」
西は笑ってみせる。
自虐とも悪魔的とも言える不敵な微笑を浮かべて、両手を天にかざし、深夜の大都会の彼方へ、ゆっくりと吸い込まれていく・・・。

半世紀前、すでにこの国は宇宙服なしでは生きられない国だったのかもしれない。
人工の装置でしか呼吸できない灰の土地だったのかもしれない。
その現実を見て、人は笑う。
現実を受け入れる側も、素直に笑う。
みんな、明るい。みんな、ニッポン人。

この映画は古いだろう。
青臭いセリフがいっぱいの、パターン的な風刺劇だろう。
それでもいい。
こんな映画すら、もう2006年には、作られることもない。
恥ずかしいから。ダサいから。流行らないから。
サンドイッチマンだらけなのに。
我先にと、宇宙服を着たがる人間が、狭苦しい島国に溢れかえっているというのに。

ひたすら、もっぱらニッポンだ。
絵に画いたような、我々はニッポン人だ。




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