AV落人辻丸の言霊〜殉教録〜

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zoom RSS 我が事終ら、ず・・映画メモ「北村透谷 わが冬の歌」

<<   作成日時 : 2005/12/07 21:43   >>

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77年 監督山口清一郎 脚本菅孝行 出演みなみらんぼう 田中真理 石橋蓮司 沖雅也 藤真利子 河原崎次郎 鳥居恵子 堀内正美 松田修 外波山文明 下元史郎

「我が事終れリ」
自由民権運動の壮士、北村透谷がこの一行を残して自殺を計る。彼は文学者であり、女学校の教師でもあった。

たった一行の遺書。
僕はただのエロ稼業。北村透谷の詩も評論も読んだ事のない、ブログ中毒。明治なんて遥か昔の平成浪人。AV女優ばかり相手する、死に損ないの説教屋。
我が事、遺書さえ終わらず、もう数百行は、書き漁る・・・か。

明治二十七年、元旦、日清戦争前夜。
一命をとりとめて隠遁生活を送る透谷の家に、彼の弟子、かつての同士、義弟、文学仲間等がつどう。大矢蒼海、山地愛山、島崎藤村、樋口一葉・・・・。
愛山は、オッペケペの舞台に熱狂していた大衆が、今や戦意高騰劇に沸き返っているサマを、透谷と二人で傍観していたことを語る。オッペケペを支持していた愛山に、あんなものは何の思想もないと否定していた透谷は、論争の上では勝ったわけだが、結局は彼の一番嫌いな世の中になってしまったにすぎない。
蒼海は、運動資金調達のための強盗計画を透谷が断固拒否したこと、自分はひたすら実行し、ほとんどが失敗したこと、を語り、透谷は裏切り者だと酒の勢いで苦々しくののしる。
あくまでも透谷に心酔しているのは、若き藤村、一葉・・・。

大衆への憤慨、時代が操るブームという名の軽薄と残酷。
民権のための強奪。滑稽なる本末転倒。
年始の酒席という太平舞台で語り継がれるのは苦渋に満ちた個人と時代の相克。
これは一種のホームドラマだ。国家に翻弄されるしかない無力の餓鬼共の、哀れな兄弟喧嘩だ。外の世界とはまるでクロスしない。すでに終わっちまった家族会議だ。

そこへ透谷が二階から降りてくる。
「俺もお前の本質はわかっている」
言われた愛山はとっとと退散するが、彼は後に国家社会主義者となって、国権を鼓吹するようになる・・・。

人は何かに寄生するしかないのか。その場その場で付着して、吸い付いて、しゃあしゃあと生息を保つしかないのか。
醜い。だが、大抵の人間は、しぶといほどに、終わりたがらない。それが本質だ。

透谷は蒼海に食って掛かる。
「なぜ黙ってるんですか・・そうか、気のふれた奴には関わり合いになりたくないって言うんですか」
「違うんだよ、北村。俺はよ、口に出してみて初めてわかったんだ。遅いんだよ。言えば言うほど辛くなる。だからもうよそうな、北村」
「アンタ、俺を裏切り者だって言ったな!脱落者って言ったな!やっぱり、アンタまでそう思っていたのか。違うだろ、アンタだって逃げようとしたじゃないか。俺は逃げようとしたアンタが好きなんだ」
「でも俺はやったんだよ。やって、一生棒にふった。お前は全然別の道を選んだ。そのことが大切だったんだろう?」
「そうか、そう思っていたのか。それじゃなおさら言いたい。確かに今からじゃ遅過ぎる。だが、これだけは聞いてくれ」

裏切り者。脱落者。
弱い者ほど、孤独な者ほど、そう呼ばれる。強い者は別の名前にまんまとすリ変わる。そしてカネと地位の高みから、一匹一匹弱虫を断罪する。
逃げようとした人を、逃げようとしたから好きになれる。
こういう思想がもっとあれば、もっと広がってくれれば、遅過ぎることなんて何もない。今からでも弱い者は救われる。本当に支援されるべき人々が、孤独と絶望から解放される。

「土岐置来」(時めぐりきたる)
それは八王子の川口村というところの壮士達の隠れ家にあった掛け軸の文字だ。
ある日の会議中、官警に踏み込まれそうになった彼等は再会を誓ってバラバラに逃げる。透谷は色街に紛れ、一人の女郎にかくまってもらう。
腕にザクロの刺青のある痩せこけた娼婦。透谷は、蝶と名乗るその女に、自分も同じ刺青がしたい、と願うが、女はよしなよ、と止める。
「血なら洗えば落とせるけどさ、これはそうはいかないんだ。一度彫ったら、取り返しがつかないんだよ」
「そうなんだ。だからこそ彫りたいのさ。お蝶さんと同じになりたい」

革命とイレズミ。理想への長い道程と、永遠の焼き印。
時を引き寄せたいのも人間なら、それに疲れ、時を止めてしまおうとするのも、また人間。
僕には何の改革志向もない。刻印への憧れもない。僕は誰とも、同じになれない。

苦しみながらも透谷の右腕への彫り物は終わる。色鮮やかな石榴の入れ墨。
「あんた、よくこらえたねぇ。後悔してないかい?本気だったんだねぇ」
「俺と一緒になってくれないかい」
「一緒に?ホホホ・・・駄目だよ」
「どうして?」
「あたしゃねぇ、そんな身分じゃないんだよ。ほんと、世間知らずだねぇ・・・なにが自由民権だい!」

現実にまるで根ざしていない革命ゴッコ。入れ墨程度の一体化に陶酔する無産幻想。
僕には現実などあるのか。何かを産み出してきた試しがあるのか。
僕も何人もの娼婦に会った。性を売るという点ならAV女優達もそうだ。
僕には彼女達のことが何もわかっていない。彼女達の世間が、自由が、権利が、全然理解出来ていない。
それなのに沢山の子達に祈ってきた。一緒になってほしい、一緒にいてほしい。
僕は笑われた。吐き捨てるように、何かを言われてきた。
何を?なんて?
僕は人から愛される、そんな身分ですらないのか。

透谷は蒼海に言う。
お蝶はその後、強盗に殺された。我々の仲間に殺されたのかもしれない。だから絶対に参加したくなかった。
そうまでして手に入れたカネは一体どうなった?半分は、隊長がネコババ、残りは幹部連中の女郎買いに消えたじゃないか?
「自由民権なんてどこにもなかったんだ!」
「自由民権は俺だよ、お前だよ。だから俺はやったんだ。お前にも・・一緒にやってほしかった・・」

人は巡り巡って誰かを殺している。きっとどこかで殺している。
だのに人はそれを認めない。当然の顔をして認めようと、しやしない。
否定したくないから。他人を幾らでも否定しても、自分自身を決した否定したくはないから。
それも欲望なのに。持ち逃げや射精と変わらない、ただの我欲なのに。
僕は何だ?僕という人間は、否定しても否定しても、どんなに自分で否定しても、やっぱり殺される価値もないのか。

透谷は自由恋愛主義の提唱者でもあった。
彼は婚約中だった女性と熱烈な恋愛の末に略奪結婚しながら、後に二人の教え子とも関係していた。
恋愛に対してまだまだ臆病な藤村に彼は厳しい言葉を叩き付ける。
透谷の妻のかつての許婚者だった医師が、それをなだめながら言う。
「北村。君はどうして物事をそう抜き差しならんように突き詰めてしまうんだろうな。これでは周りの人がみんな不幸になる。君はどんどん、孤独になる」
「それが文学です・・・」
「文学じゃないよ、君だよ。君という人間が問題なんだ。自分のいいところをもっと人にわかってもらわないと、誤解されたままで終わりゃしないかね」
「・・・・・」
「(周囲に)確かに北村君は強い人です。いや、むしろ強過ぎるからこそ、傷も深くなる。私はそれを心配しているんです」

抜き差しならないように突き詰めているのか、何かに突き詰められているのか。
僕はいずれにしても、自分の生き方を、考え方をもはや変えられない。周りが不幸になろうと、果てしなく孤独に陥ようと。
いいところ?そんなものがあるのか?誰が教えてくれるのか。誰がそれを愛してくれるのか?
もうとっくに不幸だ、孤独だ、誤解されたままだ。
それがAVです・・・?
終わってるんだ。弱いくせに、大した傷でもないくせに、誰ひとり心配もしてくれやしないのに、僕という人間は、終わってしまってるんだ。

宴の終焉が来た。
義弟は透谷に、姉である透谷の妻とその娘に人並みの生活だけは送らせてやってくれ、と頼み、二度と帰らぬ覚悟でアメリカへ渡る。
朝鮮へ行くという蒼海は立ち上がり、酔った勢いのまま透谷に語る。
「おい、こらぁ、お前もずいぶん変わったな。いや、ひとつの時代が終わったのかもしれん。あとはわからん。ほんとにわからんよ」
「・・・・」
「とにかく俺のことは忘れてくれ。北村・・・お前みたいな男は、時代が変わっても、変わっちゃいかん。ははは、その方が難しいかもしれんなぁ、ええ?ははは・・・」

忘れてくれ、とは言う勇気もない。二度と帰れない場所へ旅立つ勢いもない。
時代は本当に変わったのだろうか。
自分を変える何の努力もしてこなかった僕が今もなお生きている以上、時代とはとっくに無関係なのかもしれない。ひょっとしたら僕を殺したのは、時代なのかもしれない。
ひとつの時代ではなく、終わるのは、この僕ひとり。

二人を乗せた人力車が夜の闇に消えて行く。
戻って来い!まだ話はすんでないぞ!
透谷の悲痛な叫びを背に受けながら・・・。
義弟は西部開拓に身を投じたものの、日米開戦と同時に強制収容所で客死した。
蒼海は朝鮮で政府の手先となって働いたが、生涯不遇に終わったという。

人は思うようになんて生きられない。生きられるはずがない。
いつか殺されるだけ。戻って来れる場所なんて、どこにもないだけ。

一葉や弟子達の心配を振り払って、透谷はまた二階の自室に籠る。乱雑を極めた暗い部屋で、透谷は狂おしく呻き続ける。
「つまらん、文学はつまらん」

つまらん、そう、AVはつまらん・・・。

「おしまいだ・・なにが正気だ、正気がなんだ・・卑怯者め、みんな卑怯者だ、くそ、・・・地獄だ、地獄だ・・・正気がなんだ・・・」

そうだ。僕は正気なのか。みんな卑怯じゃないのか。ここは地獄じゃないのか。

疲れ果てた透谷は、己の書き捨てた原稿を息も絶え絶えに読む。
「人間は、戦うために生まれたり・・戦う、戦うために戦はずして、戦うべきものあるがゆえに戦うものなり・・・戦うに剣をもってするあり、筆をもってするあり、戦うときは必ず、敵を求めて戦うなり・・筆をもってすると、剣をもってすると、戦うにおいては、あい異なるところなし・・・」

僕には剣はない。筆の代わりが言葉、支離滅裂なる言葉、破調するだけの言葉。
戦う。戦うべきもの。敵は無限だ。僕以外のすべてと、そして僕自身だ。

五か月後、落ち着いてきたかに見えた透谷を、再び狂気の発作が襲う。
俺はもう駄目だ、一緒に死んでくれ、と妻に乞う。
だが、去年の未遂の時は死ぬのなら私も一緒よ、と言ってくれた妻も、今は側で泣く幼い娘を抱き締めると、烈しく拒絶する。
「嫌です、この子がいるから嫌です!」
「・・・そうか、好きにするがいい。俺も勝手にするぞ。俺はもう誰にも気兼ねしない。俺は自由だ・・・」
「・・・・」
「俺はイチからやリ直す。もう何もいらない。みんな捨てていく」

一人で死ねば止められ、一緒だと放逐される。
生きていける人間は、やリ直す必要がない。何でもある。何も捨てない。
僕は誰かと死ぬ気はない。断じてない。それだけが、自由だ。僕が勝手に出来ることは、それだけなんだ。

透谷は川口村へやって来る。
だが、隠れ家はもはや無惨な廃墟と化し、人っ子一人いない。
フスマは倒れ、壁は崩れ、天井は落ち、掛け軸も残骸の渦に埋まっていく。
透谷は原野を彷徨う。
「おーい、みんなどこ行っちまったんだよ!」
誰も答えない。誰の声もしない。
「約束が違うじゃないか、どこ行っちまったんだよ、俺達の村はどこだ?!」
透谷は見る。
荒野の彼方、磔にされていく同士を、あるいは自分を。
「殺されてたまるか・・・俺はまだ生きてるぞぉー!」

北村透谷はこの年の五月、自宅の庭で縊死した。享年二十五歳。
彼の事は終わったのか。誰にもわかりはしない。
僕はもう四十四歳。訪ねるべき村もない、廃墟もない、掛け軸もない。
時なんて、めぐりはしなかった。
みんな、約束、俺達、どこ・・・全部、大嫌いな言葉ばかりだ。
でも、磔にはされないだろう。殺されたくても、殺されないだろう。
殺されたくない人間ほど、なぜか殺されてしまう。透谷も殺されてしまった。
僕は、叫ぶ必要もない。意味もない。
まだ生きてる。
我が事終わらず。
それこそ、約束が違うだろうに・・・。






















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