AV落人辻丸の言霊〜殉教録〜

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zoom RSS ”空気”を入れる

<<   作成日時 : 2005/11/26 19:06   >>

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いつも通りの現場だと思っていた。僕がドラマの設定に沿ってネチネチと言葉で追い込み、あとはレイパー男優が締める。そういうシリーズだった。
ところが急に変わった。女の子をまず落としたいから、ガンガン気味にやってくれ、と言われた。いきなりハード路線にしろ、というわけだ。そんな簡単にはいかないのに・・・しかし、やるしかなかった。急いで”空気”を入れることになり、僕はうずくまった。

僕は仕事を受ける時、大体の内容を必ず聞く。ドラマかドキュメントか。どういうイジメか(ほとんどこのテの役だから)、外撮りはあるか、絡みはあるか、発射はあるか・・・。
もちろんテキトーにしか教えてくれない所もあるが、大体の目星はつけられるし、少なくともイジメのレベルくらいは確認出来る。
ドラマとドキュメントでは、まるで質が違う。単体と企画でもまた許容範囲が当然変わってくるのだ。
その日の女の子は無名の企画女優。でもあくまでドラマであり、シリーズとしてのパターンも固定している。だから安心していたし、何のココロの準備もしてはいなかった。
それがいきなりのヴァージョンアップである。
さあ、困った。僕にとっては、ほとんど別人格へのあわただしい急ぎ旅。
こんなことは、かなり珍しいのだ。

監督の急なリクエストもわからなくはなかった。
実際様子を伺うに、煮ても焼いても食えなそうな女優だった。やたらと明るくタメ口だらけ。言葉責めやレイプについての多少の脅かし説明にもヘラヘラニコニコ。やる気あるんかいな?まだ五、六本しか出てないらしいのに、もう仕事をナメ切っていやがるのか。

だが、ソフトからハードへ、それも枠内の芝居から、限り無くドキュメントに近い言葉嬲りへの急な変更は、正直しんどい。
何より自分を変えなくてはならない。
女優がどういうタイプかよりも、まず非情な精神破壊者へのシフトチェンジに一気にかからなくてはならない。

僕だって年がら年中女優イジメの本能を心中密かに煮えたぎらせているわけではない。むしろ戦闘モードに入るのは大抵が撮影当日、それもスタジオに入ってから。もちろん前もってのプロフィール検索や出演作調べなどの下準備もそれなりにはするが、やはり実物を目にしてからでないと闘魂に火はつかない。格闘技みたいに実戦を想定した日頃のトレーニングなんてあり得ないし、ただの絡みと違ってプライベートや風俗でテクニック向上なんてわけにもいかない。
つまり当日、女優という獲物を垣間見ながら、せいぜい面接紙くらいを片手に、あとはひたすら沈思黙考、己の内部に巣食う冷酷鬼畜の細胞を目覚めさせるしかないのだ。それはまさに、生き損ないの如く漂ってていた自分に”空気”を入れる、ということなのだ。

しかしそれもこれも事前の心構えが多少ともあったればこそ。
ましてその日のような突然の注入くらい、精神のドタバタを見舞わされることはない。
それでも、やるしかない現実。
まずはひとりになることから始めるしかないのだ。

こういう時に限って控え室は狭い。それもメインの現場とドア開けっ放しのほとんど地続きでスタッフの出入りも慌ただしい。僕は片隅の椅子に腰掛け、壁を背に両手を組み合わせて視線を下げる。側を行き交う人の足先だけ見える状態で、自分の世界に入っていく。
わざとらしい素振りではあるが、こういうポーズ的なものからのスタートは意外と馬鹿に出来ない。何しろどういう結果であれ、受け止めるのは自分ひとりなのだ。どんなに大勢いようと、現場に誰一人、助けてくれる味方はいないのだ。

通常の絡みとの決定的な違い。相手の女優が最大の敵であること。相手とカラダを繋げるのではなく、身も心も切り裂くように反射し合わなければ、何の成果も上げられないこと。
レイプとも違う。一方通行のアクションでは、女優はただのモノだ。
僕に求められる言葉嬲りの場合、女優を逆に素の人間として開花させなければならない。AV女優という慣れ切った殻から引きずり出し、今迄自分でも意識したこともない、リアルな感情にまみれさせ、本物の自分を突き付けてやらなくてはならない。
これはどんな女優にとっても一番タブーな世界であり、最も神経を逆撫でされる行為だ。
その首謀者に、直接の執行人になるわけなのだから、憎悪に近い一切の私情を引き受ける覚悟を決めなくてはならない。
誰もアテには出来ない。誰だってやりたがらない、出来れば避けたい、そんな現実だから。

一人になること、自分にバリアを張ること、嫌悪のモードを作ること、それらは僕のような臆病者が、己の中の孤独、脆弱、自省、否定、そんな負の要素を封じ込め、怒りと怨念と、偏執と冷血とを、無理矢理にでも引っ張りだす、重要な過程だ。
そしてその湧き上がってきた激情をより明確にし、揺るぎ無きよう土台を固める作業が、プロフィールと先ほど盗み見た印象から焙リ出す、攻撃点、責め所の発掘なのだ。

これは大体において、幾つかのパターンがある。
さっきの女優で言えば、まずそのふざけた態度。仕事を舐めているような、馬鹿明るさ。
これを僕個人への侮辱にまで昇化させる。仕事というものを通じて世間社会にまで拡大させる。
目の前の相手を侮蔑した戸惑い、AVという仕事の厳格さを宣告された驚愕。
次にその生い立ちだ。親兄弟の有無。彼等との関係。別に詳しくなんて知ってる必要もない。隠れた仕事という負い目を一番強烈に思い知らせるのが、自分の原点である血と生活の真実だ。どんなに開き直った女優でも、自分の血と過去は、殺すことが出来ない。
その延長にあるのが、現在の状況と性体験。
その子だけの趣味や特技、あるいは学校や他の職業。これらは縁薄い家族以上にリアルで大切なものだ。触れられたくない彼女達のナマナマしい城だ。もちろんカレシがいれば、なおのこと。本番女優にとってカレシの存在は、ある種の十字架。
そういうすべてが、今キャピキャピワクワクと楽しんでいるAVという仕事と絶対的に対立し相反するものなのだ。たとえ乱脈な性体験史があったとしても、だからAV女優に、と断罪されることをAV女優は一番嫌うのだ。

ここまで辿れば、もうある程度の方向性は見えてくる。
今日の子ならば、文句無しに緩んだ態度を責め、兄一人ならば彼に見られるかもしれないAVの恐怖を語り、堅い仕事をしているらしい親の立場を陰質に突つき、フリーターだったといういい加減な生き方を罵倒し、中でも外でもイきやすい淫乱ボディを蔑視し、意外に少ない男性数から、一気に絡みという無差別な交わりを許してしまった無分別、欺瞞に満ちたエロ白痴ぶりを暴露し、そのうえ普段は素知らぬ顔で世間に紛れて生活ゴッコしている傲慢な性格の、醜悪な正体を情け容赦無く暴き出し、破壊し、蹂躙し、唾棄の元に虐殺し・・・・。

俺は何をしているんだ?
こんな風に一瞬でも考えてはならない。もう責めるしかないのだ。本気で全霊で、あらゆる昂りでもって今日の女優を徹底的に追い込まなくてはならないのだ。
僕はもうここにいる。前も後ろもなく、言葉嬲りという煉獄で、自分を捨ててのたうちまわる。それしかこの場を生きて、僕は出て行くことが出来ない。
馬鹿馬鹿しいことこの上ないだろう。
言葉嬲りなんて好きか?イジメて面白いか?こんな現場楽しいか?
答えなんて今は不要だ。
僕は言葉嬲りに自分を預ける。イジメてイジメて、我を忘れて無限に溺れる。目の前の現場で、自分に許された唯一の世界を、呪われた国家を築き、たった一人で支配し、狂乱の底で崩壊させる。
僕は呻いているだろう。騒々しい控え室の片隅で。
僕はもう怒鳴っているだろう、自分の胸奥、鼓膜の底に響く咆哮を、一人孤独に。
カメラが回りだすずっと前から、僕の闘争は始まっているのだ。僕の閉ざされた暗黒の中で、言葉と感情が激しく交錯し、心を戦場と化しているんだ。
やがて汗だくに備えてTシャツを変え、歯を磨き、鏡を覗き、そして僕は本物の戦場へ出る。その時すでに心の中は半ば焦土と化していても、灰に埋まった亡霊に近い肉体を引きずっていても、僕は出て行く。
”空気”は入った。入り過ぎた。いつまでたっても調節の効かない自家製の凶気、悪夢への破滅的な没入。
魂を売って僕は、生きてきた。悪魔にではなく、こんな戯れ事のために、こんな下らない、無益な、ゴミ以下のために。
しかしそれが僕だ。僕は僕だけの”空気”を吸ってしか生きてこられなかった下劣な人間。
僕の”空気”は、僕の寂しい、死神なんだ。


追伸・・・なんのことはない、直前になってまた路線が変わった。芝居をやらせてみたら予想外に女優のマゾ演技と反応が良かったので、結局いつものソフトダーク路線に舞い戻った。
変わりやすいのは、オンナ心と春の空。
変えられやすいのは、男優仕事と冬の夢。
僕はほとほと、疲れ切った。どこか安堵している自分をつくづくツマラナイ人間だと、むなしく思った。

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