AV落人辻丸の言霊〜殉教録〜

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zoom RSS 己の根を知る・・・「燃えよ!カンフー」詩録

<<   作成日時 : 2005/11/11 20:03   >>

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「先生、この世に限りのないものがあるのでしょうか」「太陽がある。月がある。そして命がある」「しかし彼の命は終わりました。私よりもなお若いのに、泣いてくれる娘も、後を継ぐ息子もいません」「木の葉は木によって美しく茂る。しかし葉が落ちる時、木は悲しみに震える」「過去の繋がりのことですか」「現在は過去に根を張っているのだ。人は根を通して養分を吸い、力を得るのだ」「・・・・私は根のない木と同じです」

根無し草。僕もそうだろう。僕の過去に、何の力があるというのか。

亡き父の生まれ故郷ローズビルへ向かう途中、僧はインディアンからひとりの男を助けるが、彼は金鉱のあリかを記した地図を残して息絶える。あやうく殺人犯にされかかったところを僧は老説教師に救われるのだが、貧困生活に飽き飽きしていた説教師は僧に恩を売って、地図を預かり、金鉱を求めてインディアンの土地へ入って行く。
僧は金などどうでもよく、戸籍を調べて、この町に父の父、自分の祖父が存命であることを知る。
僧「先生、人間の根のうち、どちらが強いのですか」
「母の根よりも、父の根の方が勝る」
僧「根のない人間は何ですか」
「すなわち根のない木だ。太い根が地中深く伸びているほど、その木は強い」
僧「名前と、心に残る面影と、生まれた町、それが私が父について知っているすべてです。私という人間の半分は、空しく謎に包まれています」
「では、探し求めるのだ。永遠の時の中に、お前の存在を明らかにするのは、お前を過去と未来に結びつけるこの繋がりしかないのだ」

根のない人間は弱い。だから僕は弱い。
僕という人間はすべてが空しく謎に包まれている。それを探し求める、自分の存在を明らかにする、純粋な情熱が僕にはない。
己に絶望している者が、どうして根を求める。求めて何になる。僕にとって、過去との繋がりも、金の夢と変わりはない。ただただ、どうでもいい。

だが、訪ねた祖父は頑固な石工で、息子の清国人との結婚を今も許さず、そのために妻は死を早めたのだとののしり、孫である僧を追い返す。
一方、説教師はインディアンによって荒野に磔にされ、一命はとりとめたものの視力を奪われてしまう。
少林寺での盲目の老師との日々を僧は回想する。
「何を悲しむのだ?」
僧「老師のことを」
「なぜ?」
僧「雲も、水面の陽光も見られないからです。鳥の羽も・・・」
「目が心を曇らせることもある」
僧「どのように?」
「上辺だけ見ても仕方がない。羽の色だけが鳥だろうか?」
僧「違います」
「自然と一体になれば、鳥も太陽も雲も知ることができる。光を失ったからといって、失うものはない」

僕の心はとっくに曇っている。何も見えていない、それだけの人生だ。
光はあるはずなのに、何もかも失ったも同然。自然は遠く、自分を哀れむだけの、空疎な日々。

やけ酒をあおる説教師に、僧はマッチの火やランプを近付けたり、自分を探させたリ、窓が開いているか問いただしたりして、目が見えなくても何でもわかると諭す。音、匂い、感覚、触って確かめ、肌で感じれば・・・。

見えるからわからない。何て傲慢な姿勢だ。
でも、誰の足音も聞こえない。心地よい香りは少しもしない。触れさせてくれるものもなく、どこまでも肌寒くてたまらない。

夜、地図を奪おうと、ならず者達が説教師の元を襲うが、僧にやつけられる。
殺されかかっても地図を渡そうとしなかった自分に説教師は怯える。
「なぜ、くれてやらなかったのだろう。地図だ。持っているんだ。なぜ渡さなかったのだろう」
僧「なぜです?」
「ああ・・強欲、貪欲、金に対する執着・・わし自身のだ。金鉱には金がうなっていた。わしはまだ望んでいたんだ」
僧「なにを?」
「柔らかいベッド、贅沢な暮らし・・・天罰だ、神の怒りに触れて死んでも当然だ」
僧「あなたは、生きてる」
「目が見えない」
僧「ええ」
「自分の身も守れん」
僧「立派に守れる」
「ああ?」
修行時代、盲目の老師にいくら打ち掛かっていっても、かなわなかったことを僧は思い出す。
僧「身を守る技を、私が教えましょう」
「無駄なことだ」
僧「無駄じゃありません。皆にはあなたが必要なんです」
騒ぎを聞いて駆け付けた町のアブレ者達が、そうだそうだと口々に言う。
「わしに一体何が出来る?」
僧「教会を建てるんです」
「教会?」
僧「そうです」
「どうやって?」
僧「あなたの手と、皆の協力で」
「出来るだろうか」
僧「やれば」
「出来上がった姿を、夢にまで見た」
僧「どんなでした?」
「素晴らしかった」
僧「やれば出来ます」
「材木が必要だ」
僧「ええ」
「カネも」
僧「見つけるんです」
説教師はポーカー賭博で溜め込んでいたカネを床下から引っぱり出し、アブレ者達へ希望に満ちた声をかける。
「今こそ我々の手で奇跡を起こす時だ。今こそまさに、神は自らを助くる者を助く、という。そうだ、やろう。やればきっと出来る。皆で力を合わせて、自分の手で教会を建てるのだ!」

やれば出来る。
僕の嫌いな言葉だ。
しかし僕は、まだ生きてる。自分の身も守れないが、無駄なことばかりしているわけでもない。
奇跡なんて笑わせる。
けれども、自らを助くる者を助く、それは疑いたくない。僕は助けられないとしても、僕に助けることは。誰かをほんの少しでも、誰かのために、何かを見つけてあげることは。

僧は再び祖父を訪ね、祖母の墓の側に静かに座り、いつまでも動かない。祖父は一瞥をくれただけで、まったく無視し続ける。
心配して僧に近付く、祖父の家の家政婦。
「何が望みなの?」
僧「私が受け継ぐべきもの。私の根。それが欲しいのです」
「何ももらえやしないわよ。いつまでそうやってる気なの?食べ物も無し、水も無しで。旦那はあんたを死なせる気よ」
僧「構いません」

根も無いままで生きるのは、生まれて来なかったことと変わりはない。この世に生を紡ぐ意味がまったく無いのと同じことだ。
僕は自分から受け継ぐことを拒否している。怠けている。
自分がどうでもいいから。誰かしか、欲しいものはないから。

家政婦に乞われて説教師がやって来ると、墓石を作ってお前自身の名を刻め、と祖父に言い放つ。
「あんただっていつかは死なねばならんのだ」
「ふん。目が見えないのに」
「ああ、そうだ」
「出て行け!」
「今すぐ膝まずいて神の許しを乞うがいい。それとも地獄に堕ちたいのか!」
説教師は明かしてやる。
祖父は息子が清国の娘をめとったことに憤慨し、二人を叩き出し、許して一緒に暮らそうという妻の願いにも耳を貸さなかったのだ。
「お前は自分の罪を認める勇気もない臆病な腰抜けだ」
「出鱈目を言うな!」
「神の前でそう言えるか?良心を誤摩化すために、酒を呑んで酔っ払い、わしの世話になったことが何度あった?妻を死なせたのはお前自身だ。すべてお前自身の罪だ」
「目が見えないくせに!」
祖父は鉄の道具で打ち掛かるが、僧に教わった説教師の杖術に負かされてしまう。
「真実を見る目を持たぬのは、どっちだ・・・わしか、お前か」

許しが乞いたい。僕の神に。
僕が根を求めないのは、結局感謝の心がないからだ。先祖や歴史や、老いや死に対してさえも、敬う気持ちに乏しいからだ。良心に背を向けた、底深い罪。許されようもない、覚悟の断罪。
堕ちても構わない。僕の地獄なら。
臆病な腰抜け。それが真実だ。
僕は、いつも見ている。見えている。でも、何も出来ない。

うなだれた祖父は、やがて僧の前へ歩いて行く。
「立っておくれ、さあ・・・おお、父親によく似ておる。お前にやるものは何もない」
僧「いいえ。あなたを通じて父から祖父、そして祖祖父へと、自分の根を、確かめられるのです」
お前には腹違いの兄がいると、祖父は言って、兄からの古い手紙を渡す。祖父の父親の形見と、僧の父親の持っていたものも。
教会が完成すると、僧はそれらの品を胸に、説教師達に惜しまれながら、また旅へ出る。

僕は子供が欲しいと思ったことは一度もない。これからもそんな気には、およそならないだろう。
なぜだ。ただの面倒臭がり?それだけで、己の根を完全に、永遠に絶ってしまうのか?
愛情が持てない?敬愛も慈愛もなくて、それでもまだくたばらなくて、自分の弱さだけを確かめたくて・・・。
わからない。先のことも自分のことも、やっぱりわからない。
僕も旅を続けるだけ。
形見も惜しみも、誰にやれる根もないまま、この世の限りだけにうなだれて、生きて行くだけ。






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