AV落人辻丸の言霊〜殉教録〜

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zoom RSS 産まれ落ちた不条理・・映画メモ「胎児が密猟する時」

<<   作成日時 : 2005/08/31 21:31   >>

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66年 監督若松孝二 脚本足立正生 出演山谷初男 志摩みはる

「我が生まれし日 亡び失せよ 何とて我は胎より 死に出でざりしや 何とて 胎より出でし時に 気息たえざりしや」旧約聖書・ヨブ記

雨の夜、ひとりの男が若い女を自分のマンションの一室に誘い込んだ。
「この子も花嫁衣装を着て、そのうち赤ん坊を産みたくなるんだろうな・・・」
男はデパートの専務、女は売り子。女嫌いで少女趣味といわれている男と、翌日彼氏とのデートを控えた、よく笑う安月給の女。
ふたりはベッドに入った。男は睡眠薬入りの酒を女に勧めた。女がウトウトし始めるや、男は鞭を手にした。
「俺はお前達のような奴が大嫌いなんだ。たかが薄汚れた売り子のくせに!」
男は鞭を振るった。力任せに女を打ち据えた。悲鳴を上げてのたうちまわる女に縄をかけ、なおも打った。
「許せるものと許せないものが、この世のなかにはある。糞袋でしかない貴様には、ミソもクソもないだろうが!お前には愛するということがどういうことか、何をすることかわかるか。いいか、お前は紳士用品売り場の係りだから、靴下を何束何ダースと数えることが出来る。しかもその靴下の数の多い少ない、値段の高い低いを知ってる。それだけしかわからない。流行だとか明るいとか渋い色だとか・・・」
「・・・・・・・」
「犬は違う。犬は一から三までしか数えられない。だから自分の産み落とした子が四匹いたとする。そのうちの一匹を盗まれても三匹いるからなんとも思わない。しかしさらにもう一匹盗まれると、二匹しかいないから怒りだす。鳴き喚いて悲しむ」
「・・・・・・・」
「お前達も犬と同じだ。数はわかっても一と二の質の違いはわからない。二つ減ると身も世もなく深刻になるが、ひとつ減る分にはなんともない。昔の軍隊と同じだ。人数揃えるのに夢中になって、左から右までずらりと一列。挙国一致体制で枠からハミ出した部分は切り捨て御免。それもよかろう。お前達の身に染み付いた合理主義だ。ただひとつの不合理は、産まれた時からある、この肉体。これがお前達の最大の不合理だ。だからその糞袋でしかない肉に頼り、肉を自然と呼んでほったらかす。いいか、親兄弟、血も肉も、愛も小便も糞も人間性も見分けのつかないお前達に、全能の神から預かったこの愛の鞭で、俺のような純血種が、お前の分裂した心と肉を組み換えてやる」

この映画はSM映画か。いや、まったく違う。
なるほど縄も鞭も蝋燭も出て来る。だが、この主人公に好色さはない。性の欲望もない。
あるのは憎悪。そして憤り。
何に対して?
女。その心と体、存在そのものの不合理性。それは犬はおろか、軍隊とも国家とも例えられる、男にとってのまさに普遍の対象。社会にも生命にもクロスする無欠の相対。
なぜか。この男にとっては、女は母だからだ。女から産み落とされてしまったからだ。

男は、ぐったりした女の前に不気味な黄金色のものをつきつける。
「これを見ろ、これがお前の顔だ。ふふふ、よく似てるだろう。これが逃げた俺の女房のデスマスクさ。あいつは逃げ出しやがった。一年前、子供を産むと言ってな・・・」
男は思い出す。誰の子でもいいから孕みかねない妻を、泣きながら殴った時のことを思い出す。
「まあいい、まあいいさ。お前の腹のなかでヌクヌク育ってる分にはまだ許せる。胎内にいる時は幸せだからな。お袋のあたたかい温もりのなかの世界、それは極楽だ、天国だ。しかしそれだけじゃないんだ。そのままで終わってくれればいいが、子供が産まれるのは、母の体内からこの世のなかへ、幸せな世界から地獄のような血の海のなかへ、そしてそれを通り抜け、暗い狭いこの世への通路をさらに飛び、傷だらけ血だらけになって・・・本当の地獄さ。地獄の苦しみさ。それを耐えられると思うのか!」

僕はマザコンではない。胎内への回帰願望なども全然ない。理解もできない。
しかし僕にとってもまた女は軍隊でもあり国家でもある。性は政治的なものだ。だから社会に生命を預けている以上、常に疑問を持ち、疑い、失望し、やがて憎悪する、激しく憤る。この男のしゃべり、自己陶酔の独演。まるで僕の言葉嬲りじゃないか。僕はいつもこんな破天荒な激情に駆られながら、AV女優をいじめまくってるじゃないか。

「この女もそうだった。数しかわからない牝犬だった。俺はお前達が許せない。犬が三以上の数がわからないように、お前達は自分のわからないものを、神々しい産みの恐怖を受け入れることが出来ない。信じることが出来ない」
薬が効いて眠ったままの女を男は犯した。膣か子宮か、おぞましい女体の幻覚に怯え叫びながら女の腹の上で果てた。
僕の射精にも快感なんて、もうない。いつも逃げ込むように、文字通りのブザマさで、果て尽くすだけ・・・。

翌朝、薬から醒めた女は、全身の痛みと鞭跡に青ざめて怒った。男を口汚くののしった。男は金を渡した。馬鹿にしないでよ!と女は拒絶し、水道の水を、流れに口をつけて飲んだ。男は謝った。この部屋を君にあげてもいい、とさえ言った。化粧を直していた女の頬が醜くゆがんだ。すると男の耳には、聞こえだした。
ふん、なにさ、インポの百貨店の二代目のくせしやがって。
土台お前なんか他人に女房盗られるような男だろう。
テメエみたいな男か女かわからない人間なんかに、なにが出来る?

このあいだの現場みたいだ。僕にもヘアメイクの女の無言の声が聞こえた。
キモいくせしやがって。カノジョひとり作れないんだろう。テメエみたいなダサダサのオヤジなんかに、なにが出来る?

男は女に襲いかかった。猿ぐつわをかまし、大の字に縛り上げた。ナイフでひと裂きし、鞭を打ち下ろした。くぐもった女の悲鳴などお構いなしに狂ったように叩き続けた。妊娠したと言う妻を思い出しながら、俺の分身が産まれるはずがない、誰の子を孕んだか言えっ!とひたすら拷問を加えた。
「行け。虐げられ踏みにじられ、俺のお袋と俺の妻の亡骸をつかんで。ブタ。犬。それ、失われた時を取りかえせ。オヤジの仇をとれ。お前が欲しいものは何だ。その安っぽい肉の内側で夢見る女はどうした。許せない。確かに俺は裏切られた。今に始まったことではない。あのマリーアントワネット王女が、大群衆の前で、何千人という血を吸ったギロチンの刃で、断頭台にコロリンと首を転がしたように。戦後の物の価値の倒壊と、精神の惑乱のなかで俺のお袋は、倉庫の螺旋階段の一番上からぶら下がって自殺した」
男は醜い現実と聖なる空想のなかを打ちまくった。おかあさーん、と哭きながら、鞭の洗礼に溺れた。

今の僕にも現実は醜いだけだ。はかない空想で女を拷問するだけだ。哭ける相手はいないけど、ひとりで毎日溺れるように生き延びているだけだ。

「私にとって、この世の最大の不条理は、私が産まれたということだ。私はなぜ産まれた?おかあさん。私はアンタの体内から、なぜ出てきたんだ?アンタはなぜ私を産んだ?そして私は、なぜこう苦しむんだ・・・」
彼は素っ裸になってうずくまり、つぶやく。
産まれたということが、最大の不条理?!
なんてことだ。
これ以上の、僕の人生を表した言葉があるだろうか?
しかも僕には母への問いかけなどはない。あるのは自分だけ。無限に苦しみ続けるしかない自分だけ。
僕はなぜ産まれた?なぜ生きてるんだ?なぜ死なないんだ?
そしてなぜ、こんなに慟哭するんだ・・・。

「自然とは何だ?雨が降り落雷が度重なり、ひとが産まれてきたり死んだり・・・。かあさん、アンタは発情した・・・。それもまた自然だ。女が自然を好み、自然の法則のなかに身を委ね、その自分の自由な姿を思い描いてケダモノと化す。ケダモノと化す。かあさん、アンタは自分の腹の中の鍾乳洞で俺を育て、俺を意識する。山奥の鍾乳洞に住みついた哺乳類。尻尾を振り頭をすり付け、アンタはなにを求めた?なにが恐かった?この犬どもが!」

アタシはアタシよ。なんにも欲しかないわ。ただこうして息をし、お腹がすいたら目を輝かせ、アンタの喉にでもパクリと食いつくのよ。
女の声が、またする。
恐くはないのよ。はじめは恐かった。アンタに愛してほしいと思ったらね。
男の鞭が唸る。
今はアンタを軽蔑してやるのよ。アンタなんかなんにもないじゃない?アタシが欲しいの?アンタは自分のなにが欲しいの?おかあさん?
「売女め!自分を知らない売女め!私は私の女が欲しい。私のすべてを受け入れる女が欲しい。それをお前が女房に代わって完成する。俺の目の前で犬に成り切るんだ。お前は犬なんだ。お前は犬なんだぞ。かあさんに見せるんだ」
違う、違う。
「もう一度言う。お前は犬だ!」

僕とAV女優は、いいや僕とこれまで付き合ったカノジョ達とは、みんなこんな風に争ってきた。カメラの前で、僕の部屋で、不毛の諍いを繰り返した。

男の妻は人工授精したのだ。
女は一度は男の腕に噛み付いて逃亡しようとしたが失敗し、鞭と水責めと飢えに降参して男の前で四つん這いになり、与えられた食べ物にむしゃぶりついた。
妻は大きなお腹で男の部屋から逃げた。
なにがこわいの?あなたはカタワなのよ!
僕の女達も、ひとり残らず逃げた。
男と僕。監禁サディストと鬼畜男優。けれど辿り着く先はやっぱり変わらない。
どん底の涙。絞り抜くような甘え。

また雨が降り出した。
男は女の胸のなかへ飛び込んだ。声をあげて泣いた。赤ん坊のように泣いた。
女は彼を抱いた。母親のように抱きしめた。子供を眠らせるための童謡を口づさんだ。
僕だって誰かに歌ってほしい。抱かれたまま眠りたい。

しかし女はまた逃亡を計る。

なぜ逃げるの?逃げてどうするの?逃げたって同じことよ。一日中、デパートで突っ立ってるだけよ。
そうよ、それがアタシよ。それをあの男がどう変えてくれるっていうの?
なにも起こりはしないのよ。
でも見てよ。この手この胸この足、みんなアタシの体だよ。みんなアタシなのよ。買い取ろうったって、触れやしないことだって知ってるわ。
そう、僕も知ってる。しょせん悪夢でしかないことを、苦々しく悟っている。そこだけがこの男と違う。胎児には成り切れない。

男は女を雁字搦めに緊縛して鞭をお見舞いした。
女のせせら笑う顔が脳裏をよぎる。
ワンワンと鳴かせながら責めまくった。
女の振るうカナヅチで自分がめった打ちにされていく。
男はあがくように暴れた。なにもかも振払うように、必死で暴れまくった。
「殺してやる。首を吊ったオヤジのように吊り上げて、妾になったお袋が俺の目に耐えきれず首を吊ったように、喉を突き破り・・・」
僕もいつか、めった打ちにされるのだろうか・・・・。

放心した女を見て、男は出刃包丁を握った。
「素晴らしい。俺が求めていたのはこれなんだ」
今度は太い声が、地の底から聞こえてきた。
なにをしようって言うんだ?誰を探しているんだ?なにを求めているんだ?
「なにを求めているって?俺が求めているのは女だ。女全体だ。お袋のように美しい優しい・・・」
お袋はただの女だぞ。
「いや、違う。俺はお袋が欲しいんだ!」
いや、違う。僕は女全体が欲しいんだ!

男は、なおも逃げ出したい、と訴える女に、逃げられるものか!と言い放って最後の酒を飲ませようとした。女はそれを男の目に吹き掛けた。
「畜生、売女野郎!」
男は一瞬ひるみ、また襲いかかろうとした。そこを刺された。
「行かないでくれ・・・頼む・・・」
「アンタなんか、アンタなんか殺してやる!」
メッタ刺しにする女。泣きわめきながら男を血まみれにする女。男はなにも出来ない。
「おかあさん・・・・」
僕は誰にも何も頼まない。もうみんな行ってしまった。どうせなにも出来ない。

雨はやんだ。
体中ドス黒い血で赤く染まったまま、女が歌う。
照る照る坊主、照る坊主・・・明日天気にしておくれ・・・・。

この映画は性犯罪映画かもしれない。ベートーベンを始めとするクラシックが、絶えず流れている変態映画。被虐の女が子守唄を唱う、白黒ポルノ。ベルギーではベトナム戦争反対のプラカードを持ったベルリン大学の学生約40人が、ワカマツはヒトラーに勝るとも劣らないファシストだ、と上映阻止をアジったらしい。
僕にはどうでもいい。
僕はとにかくこの映画を可能な限り書いた。執拗に書き写した。そうせざるをえない想いが、今日の僕を突き動かした。
哀しい。いつか僕も殺される。
僕にとって、この世の最大の不条理は、僕が産まれたということなんだ。















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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
子供を産むのも産まないのも、現在生きている人たちのエゴだと思う。
望まない妊娠でも「産む」選択をすれば、命を粗末にしていないという点では責められることはないです。私は殺しました。さんざん病院で詰られました。人権がないように扱われました。だけど、ごり押ししてまともに育てられもしないのに「産む」ことはエゴではないと言えるのか?とても疑問でした。

死にたくて死ぬんじゃないように、産まれたくて産まれてくるんじゃない。生命誕生には確実に誰かのエゴが入っているんだと思います。

あ、でも、産めないのに避妊を怠ったのは私ですからそれは責められるべきですけどね。
さゆりんご
2005/08/31 22:20
ありがとう。
ほとんど完璧な女性蔑視映画?に母なりえる女性の立場から実体験に基づく切実なご意見をいただいて恐縮しています。
産むのもエゴなら、なぜ産んだ?と叫ぶのもエゴ。
死にたくて死ぬのもエゴなら、死にたくないと叫ぶのもやはりエゴ。
避妊を怠るのもエゴなら、それを無責任に責めるのもやっぱりエゴ。
人間はそもそもがエゴでしかありません。でもそのエゴが命を育み、命を守り、命をつなぐこともある・・・どんな世界も一方的に見てはいけない、と思います。あなたは責められると同時に救われなくてはならない人でもあります。傷つき、自分を断罪しているのだから、今もなお・・・・。
またお好きな時に、想いを吐き出してみて下さい。
ありがとう。
辻丸耕平
2005/09/01 15:19

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